第26話 問題

 週末の金曜日。俺はかなり上機嫌であった。


 とういうのも、西田さんに借りたDVDがけっこう面白い。女の子が日常生活をただ送るだけのゆるいアニメなのだが、なんというか、癖になる感じである。

 一緒に見ていた夏帆姉も「こんな天使みたいな女の子いないよ~」だとか、「女子同士に真の友情は存在しないよ」だとかぼやいてはいたものの、内容的にはまんざらでもない様子であった。


 お疲れ会は活動内容が特に決まっていないため、今週はほとんどこれを見ていた。トータルの映像時間は10時間ほどだが、それでも短く感じるくらいにあっという間であった。


「面白かったね~、柚希君」


「うん、かなり良かった。特に、あのオープニングのダンスがたまらないね」


「みんなで踊るやつ?」


「そうそう。癒されるなぁ~……いや、こういうのでいいんだよ。誰も傷つけないで、ほっこりできるもんね」


「ふふふ、柚希君ったら。さて、アニメも見終わったし、紅茶でも入れるね」


「あ、ちょっと待って。その前に」


 俺はDVDディスクを取り出し、ケースへと収める。


「これ漫画研究会に借りたやつだからさ、ちょっと返してくるよ」


 さすがに、こんな貴重なものを長期間借りておくわけにはいかない。傷でもつけたら大変だし、早めに返しておこう。


「うん、じゃあ待ってるね」


♢♢♢


「俺も小遣い貯めて、DVD買うかな~」


 そんなことを呟きながら漫画研究会の部室へ行ってみると、鍵が閉まっていた。


「ありゃ、おかしいなぁ」


 今日は活動休みなのだろうか。留守なら仕方ない、来週にでも返すか。

 俺はきびすを返し、お疲れ会部室へと戻る。すると、中庭のベンチに西田さんと国見さんらしき影を見つけた。ナイスタイミングとばかりに近づいていくと、どうにも様子が変だ。


「うぇ、うぇぇぇ」


「ニシティ、泣かないでよ……私まで涙出ちゃう」


「あ、あの~……何かあったんですか?」


 俺は恐る恐る声をかけてみる。国見さんは瞳に涙をためており、西田さんなんか嗚咽おえつ交じりに泣きじゃくっている。


「うぇぇぇ、さわふじどのぉぉぉ」


「沢藤くぅぅん」


「ど、ど、ど、どうしたんですか!?」


 二人が俺の足元にすがり付いてきた。

 爆発しそうな勢いの二人をベンチに座らせ、どうにか落ち着かせると……ふと西田さんが口を開いた。


「漫画研究会は廃部であります」


「え!? そりゃまた、急にどうして?」


「部員も集まらないし、新規発足の部活がいくつかできたせいであります。予算もこれ以上割けないとのことです」


 あ、あ~……ふと思い当たる節が。


「私たち、先生に必死にお願いしたんだけど……聞き入れてもらえなくて」


「そ、そうだったんですか」


「先輩から引き継いだ部活を私たちの代で潰してしまうなんて、情けないであります」


 西田さんはまたも泣き出してしまう。


「泣かないでくださいよ、西田さん」


「だってぇ、だってぇ~」


「わかりました。責任の一端は俺たちにもありますし、どうにかしてみせましょう」


「どうにかって、どうするの?」


 国見さんが疑念の表情を浮かべる。


「そうですね、気は進まないですが……一つ秘策がありまして」


 こうして、どこかいぶかしむ二人を、俺はある場所へと連れて行くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る