第27話 とんでもない

「柚希君、おかえり~……って、あれ? どちら様?」


「夏帆姉、こちらはね」


 俺は西田さんと国見さんをお疲れ会の部室へと案内し、漫画研究会として二人を紹介する。


「あ~、DVD貸してくれた部ね。この度は、弟がお世話になりまして」


 保護者っぽく、夏帆姉が深々と頭を下げる。


「あの、沢藤殿……このお方は?」


「ああ、説明遅れてすいません。こちらは夏帆姉といって、俺の幼馴染おさななじみなんです。先生たちにけっこう顔が利くんですよ」


「幼馴染けんお姉ちゃんけん恋人けんフィアンセです!」


 相変わらずねるなぁ。


「へぇ、意外。沢藤君って恋人いたのね?」


「この人の言うことの9割は虚言なんで、気にしないでください」


 俺は二人に念を押した。


「ええ~、これから真実になるのにぃぃぃ」


「そんなことより夏帆姉、力を貸してほしんだ」


 俺は漫画研究会が現在、置かれている危機的状況を説明した。

 

「ふ~ん、そういうことがあったんだ」


「ね? お願いだよ、夏帆姉ならつるの一声だろ?」


「ちなみになんだけど、お二人は柚希君とどういう関係?」


 眉間みけんをしわを寄せ、夏帆姉が西田さんたちを見上げるように詰め寄る。その様子に困惑し、二人は顔を見合わせる。


「ええと、どういう関係かといわれましても」


「体験入部に来てもらった顔見知りってとこかな」


「ふ~ん」


 相も変わらず不機嫌そうな表情をしている。


「で、あなたたちの部を復活させたとして、私にどういうメリットがあるわけ?」


「え、それは……その」


 夏帆姉が手痛いところを突いてくる。やはり、女の子絡みのお願いだと、一筋縄ではいかないか。


「夏帆姉、そんな意地悪しないで。お疲れ会ができたのも一つの悪因なわけだし、助けてあげてよ」


「だって……お姉ちゃんなんか悔しい。柚希君にそんなに構ってもらえて」


 先ほどから不機嫌なのは、どうやらジェラシーからきているらしい


「あ、あの!」


 すると、西田さんが意を決したように手を上げる。


「我々はイラストが得意であります! 何か、描いてほしいものとかがあれば、要望をうけたまわるであります!」


「そんなの……別にいらないもん」


「そんなこと言わないでさ。そうだ! 夏帆姉、俺たち描いてもらおうよ」


「え、柚希君を?」


「いや、俺たちを。西田さんも国見さんも同人誌描くぐらい絵が上手だっていうしさ」


 だが、俺のその一言は悪手。自滅の言葉であった。


「では、お姉ちゃんと柚希君のラブラブな漫画を所望しょもうします」


「え!?」


 その言葉は聞き捨てならない。


「西田さん、やっぱりダメ。描かないでください」


「ですが、それでは……」


「ほらほら、どうするの? お姉ちゃんと柚希君の漫画をみつぐの? それとも廃部でいいの? あなたたちの返答次第だよ」


 西田さんと国見さんはしばし見つめ合った後、互いに頷き、結論を出した。


「「おおせのままに、描かせていただきます!」」


「よろしい!」


 やはり、二人にはそれしか選択肢はなかったか。夏帆姉と引き合わせた以上、俺も少し覚悟をせねばなるまい。

 満足気に夏帆姉はニヤニヤすると、西田さんたちに近づき、小声でなにやら吹き込んでいる。


『柚希君は可愛く書いてください。あと、性描写もありで』


『R指定でありますか? 行為はどこまで……』


「かなり濃密でお願いします」


 ヒソヒソとどこまで話し合っているのかはわからないが、何となく悪寒おかんのする俺であった。

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