第28話 OHお花畑

 漫画研究会との密約から数日。

 西田さんがお疲れ会の部室へと、何やらを持ってきた。他人に厳しい夏帆姉は、達成報酬の形式を課したようだ。


「この度は、うえ様に作品の中間批評をしていただく、サンプルをお持ちしましたであります」


「ふむ。拝見いたしましょう」


 目の下のクマを見る限り、徹夜が続いてそうだ。少し体調が心配になる。


「西田さん、無理してません?」


「だ、大丈夫であります。漫画研究会がなくなることに比べれば、こんな苦労など……」


「国見さんにも、あまり無理はしないように伝えてくださいね」


「あの~、漫研さん? 少しよろしくて?」


 いつになく真剣な面持ちの夏帆姉。サンプルを入念にチェックした後、西田さんになんだか偉そうに、あちこち修正を指示している。


「絵柄は及第点です。ですが、展開的に、まず柚希君に私を襲わせてください」


「は? お、襲う?」


「承知したであります」


「そこから関係性は逆転するとともに、行為の後半は私の攻めを多くお願いします。私が○○を××にして、もっと、し×××」


「あの、ア〇〇プレイについてはいかがですか? なかなか沢藤殿を可愛く書けていると思うのですが」


「ふむ、そちらはそのままで良いです」


「夏帆姉、ちょっとそれ見せて」


 禁止ワード連発に、俺は背筋が震える。すぐさまサンプルを奪い取ろそうとするが、夏帆姉がそれを渡すまいと、俺の猛攻を次々とかわす。


「ええい、観念せい」


「あん。いやん」


 俺は夏帆姉を押し倒すようにしてしまう。


「こんな感じで」


「は……はぁ」


 くっ、夏帆姉め。俺が覆いかぶさるのを嬉しそうにしてやがる。


「柚希君、このままチュウしちゃう?」


「するか、んなもん」


 俺は夏帆姉の手から同人誌のサンプルを奪い取り、中身を見る。


「はうぁ!? これ、何してんすか?」


 中身はというと、大した前置きもなしに、俺と夏帆姉らしき人物がずっと、あははうふふしている。


「あ、あまり大きな声で反応しないでほしいであります」


 それに、夏帆姉がベルトスタイルのなんかを装着して、俺の○○になにやらを突っ込んでいる。ウォシュレットの『強』にすら耐えられないというのに、そんなところを……。


「も、もうお腹いっぱいですって~」


 読み進めると、それだけで3、4ページを贅沢ぜいたくに使う有様ありさまである。四次元だ、四次元すぎる内容だ。ね、猫型ロボットがぁぁぁ。


「ひぇぇぇぇ、こんなの……死んじゃうよぉ~」


「だ、だから! 大きな声出さないでほしいでありますぅ~~~!」


 泣きそうな俺と、西田さんの声が部室に響いていた。


 トラウマを抱えそうなので、それからはあまり、このやり取りには関与しないようにしていた。そして後日、無事に漫画研究会の活動再開の報が西田さんより、スマホのメッセージで届いた。

 夏帆姉が最近妙に機嫌が良いということは……まぁ、そういうことなのだろうな。


 嬉しいような、何かを失ったような……複雑な心境であった。

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