第29話 求愛宣言 その1
朝、俺が教室へ登校すると、クラス中にどよめきが起こった。
(ん? なんだ?)
なんだか、みんなこっちを見てる気がする……変なことでもしたかな?
妙な気まずさを感じ、そそくさと自分の席へとつくと、すぐにクラスの連中に席を取り囲まれる。
「やぁ、沢藤。実はさっき、これを渡してくれって頼まれたんだけど」
一人の男子クラスメイトが、手紙のようなものを俺に手渡す。裏面を見てみると、差出人に岸辺さんの名が。
「岸辺さんが来てたの?」
「そう。なんか、お礼が言いたいんだって」
岸辺さんかぁ……部活の見学以来、すっかり会わなくなったな。すると、
『岸辺さんって、運動部のアイドルじゃん!』
『沢藤が命救ったんだろ? この前、校内新聞で読んだぜ』
『っていうか、どんな関係?』
おいおい、いきなりお祭り騒ぎかよ。俺はこれまでまでクラスでぼっちだった奴だぜ? 少しは遠慮しろよ。
「お、落ち着つきなって。岸辺さんとは……特に何もないって」
『ほんとかよ~』
『運動部では、付き合ってるってもっぱらの噂だけど』
『嘘だろ……憧れてたのにぃ~』
質問の連続に若干たじたじだが、なぜかあまり悪い気がしない俺。もしかして、岸辺さん効果で俺の株爆上がり中かも。
それからも、何度も付き合ってはいる事実はないと答えると、男性陣からは安堵の声が漏れ、噂好きの女子は「きゃあ、きゃあ」と盛り上がっている。
『はい、みんな席ついて~』
そうこうしている間に始業ベルが鳴り、担任が教室へ入ってくる。すると、皆、蟻の子を散らすように席へと戻っていった。
(ふぅ、助かった)
こんなのを笑顔で受けねばならないと思うと、有名人って大変なんだなぁとつくづく感じる。
でも、岸辺さん……いまさらお礼なんて。どういう意図なのだろうか。そんなことを思いつつ、俺はその手紙を、あとでこっそり読むのであった。
♢♢♢
放課後になった。岸辺さんの手紙はというと……。
『この間のお礼が言いたいので、放課後に視聴覚室に来てください。あと、二人きりで大切なお話もしたいです』
と、えらくあっさりしたものであった。
あの更衣室の一件以来、会うのは久々だ。二人きりというのにいささか抵抗を感じたが、クラスメイトの手前、すっぽかすわけにはいかない。要求通りに岸辺さんが待つ視聴覚室までやってきたというわけなのだ。
「失礼しま~す」
恐る恐る中へ入っていくと……。
「あ、君! えっと……沢藤君!」
こちらに気づいた岸辺さんが、タタタと駆け寄ってきたのであった。
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