第30話 求愛宣言 その2

「えっと、その、なんて言えばいいのかな。久しぶり?」


「そうですね、ご無沙汰してました」


「そうだ、君の名前……沢藤君って言うんだね」


「あ、あれ? 名乗りませんでしたっけ?」


「聞いてないよ~。入部体験でしか会ってないし、正式な挨拶とかなかったし。それに、先生は『あいつとは関わるな』って情報遮断しちゃうし」


 教師の恨みに身に覚えがありすぎる。


「校内新聞見て、当事者の私も君の名前知ったって驚きだよね」


「あはは……それは大変失礼しました。あらためまして、沢藤柚希といいます」


「沢藤君♪」


 嬉しそうに顔を近づけてくる岸辺さん。なんだか夏帆姉とどことなくオーラが似ているなぁ、この人。


「それで、あの、手紙にあった大切な話って……」


「あ、そうだったね。その、なかなかお礼言えずにごめんね。命の恩人だし、本当なら真っ先にお礼を言わなきゃいけないのに……」


「いえ。こちらこそ逃げてしまったきりで……俺にも非はあります」


「そんなことないよ。本当にありがとう。なんだかあの日のこと、校内新聞にも掲載されちゃって、大事おおごとになっちゃってるね」


「でも、おかげでクラスメイトと話す機会ができました」


「そうなんだ」


 会話が途切れ、少し間が空く。岸辺さんはというと、どこかもじもじしながら顔を赤らめている。

 なんか、まずい感じじゃないか?


「ね、ねぇ、沢藤君。運動部にはもう来ないの?」


「えっと、そうですね……実はもう部活決まっちゃってて」


「そうなんだ、残念……」


 寂しそうな笑みを浮かべる岸辺さん。


「本当はね、君が……沢藤君がまた会いに来てくれるかなって、少しだけ期待してたんだ」


「え? そ、そうなんですか」


「うん……でも、君は来てくれなかった」


「すいません。俺って、運動部に向いてないことが発覚しまして。それに」


「それに?」


「あ、いえ、今のは気にしないでください」


 実は岸辺さんを避けてましたなんてとても言えない。それに夏帆姉に色々としてやられていましたとも言えず、俺は慌てて修正する。


「でも、決断できたから……かえって良かったと思う」


「決断? なんの決断ですか? なんの、なんのは……」


「南野ヨーコ。あの後調べたんだけど、それはもういいよ」


 冗談なんか言う場面でもないというのに、何やってんだか。

 だが、さきほどからくるこの嫌なムードは何なのだろうか。どこかピンクのライトが浮かび上がるかのように、声色こわいろのトーンを高めに設定した、そんな岸辺さんの女の色気満開な態度。まさか、このまま告白なんて流れにはならないよな。 

 ははっ、まさかな……いくらなんでも自意識過剰が過ぎるぞ、沢藤柚希。


「やっぱ待ってるだけなんて私らしくないし、思い切って言うね」


「あの……お手柔らかに」


 最後の部分は食い気味でかき消されるように、岸辺さんが言い放つ。


「沢藤君、私の恋人になってください」 

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