第31話 求愛宣言 その3

 どわっちゃ! はっきり言われた! どーら、どーら、どーい。

 そこは「好きです」とか「付き合ってください」とかでもなく、明確に恋人になってくれときたもんだ。曖昧模糊あいまいもこな返答は許されないようだ。

 

「恋人……ですか」


「ダメ?」


 岸辺さんの恋人になれるかっていったら、正直、かなり自信がない。夏帆姉と同じタイプだし、迫られるのが怖い。

 でもなぁ……無下に断れば、せっかくのクラス人気がまた急降下してしまう。前回も傷つけたわけだし、どうにか穏便おんびんに断れないものか。


「いきなり恋人は……ちょっと荷が重いかと」


「だって、あんな姿見られたんだもん。色々すっとばして、恋人になるしかないよ」


「いや、色々すっとばさなくても」


「じゃあ、段階踏んだら恋人になってくれる?」


「お気持ちは嬉しいのですが」


「ええ、じゃあ手詰まりじゃない。もうお嫁にいけない……責任取ってよ」


「ええ~」


 涙交じりのジト目で見られる。

 うっ、やはりこのパターンか。夏帆姉といい、弱いんだよなぁ~これ。それに、あの日のことを引き合いに出すということは、岸辺さんもかなり本気という事がうかがえる。


「あの日のことは、その、本当に悪気はなくて。なんていうか男の本能ってあるじゃないですか」


「わかってる。だから、恋人になってくれればチャラでいいよ。これから、色々としたいこととかもあるし」


「色々?」


「そ♪ 男と女のスキンシップ」


 出た、色気発言。親の扶養ふように入ってる身だぞ? それこそ色々と問題だろ。


「あまり言いたくはないんですが、俺……いたって普通の子が好みなんです」


「普通の子? その普通って何? 基準を明確にして」


「いや、えっと……まぁ、下校中に手をつないだりとか、キスはクリスマスの夜に初めてとか。そんで、そのキスは唇を触れるだけとか」


「ふむふむ」


「あと、自転車の後ろに乗った時……胸が当たるのを照れられたりして」


 ニヤニヤと気持ち悪い妄想を話していくが、岸辺さんはなぜか真面目に聞いている。


「ジャブみたいな感じね」


「これでジャブですか? けっこう攻めてる思うんですけど」


「もう、沢藤君ったら。私たち高校生だよ? 学校での×××行為くらいストレートにいかないと。あ、心配しなくても私ね、男性経験はないから」


「わーわーわー!」


 この人からも禁止ワードがあっさり出た。


「本当にやめてください。俺、恥じらいのある女子とすら、あんまり話したことないんですから」


「え~、沢藤君ったら可愛い。ますます好きになりそう」


「勘弁してください」


「私が男だったら、好意ある女子なんかすぐ襲っちゃうけどなぁ~」


「……さすが、更衣室でお取込み中なだけあります」


「やーん。もうはずかしめないで!」


 岸辺さんが顔を手でおおい、ブンブンと首を横に振るが、どこか嬉しそう。残念ながら、岸辺さんとの押し問答はまだまだ終わりそうになかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る