第23話 たくらみ その3


「で、何企んでんの?」


 昼休みの事を有耶無耶うやむやにされたくはない俺は、夏帆姉に誘導された場所へ到着すると、すかさず問い詰めた。

 どうやらここは、今は使われていない、なんらかの元部室の様だ。


「柚希君と学校で腕組んじゃった~♪ お姉ちゃんってば、だ・い・た・ん♡」


「こらこら、夏帆姉も妄想世界に入らないの」


「そうでした。ではでは……おほん、お答えいたしましょう」


 部屋の奥に歩を進め、改めて俺に向き直った夏帆姉。一体、何を言い出すのか?


「実はね」


「ゴクッ」


 思わぬ緊張につばを飲み込む。


「ここに、お姉ちゃんの……」


「夏帆姉の……?」


「部活をつくりましたぁ~♪」


「……はい?」


 何ともいえない沈黙が、しばらくその場を包み込んだ。


♢♢♢


「あ~……要約すると、行きたい部がないから自ら部を作ったわけだ」


「違います。お姉ちゃんの野望実現の為に部を作ったの」


「どっちでもいいよ、そんなの。それよりも夏帆姉? 鼻高々に言ってるけど、承認とかもらってるの? 部活ってのはそう簡単に作れるものじゃないよ。コンセプトとか必要だし」


 皮肉る俺に対し、待ってましたと言わんばかりに夏帆姉が答える。


「活動のコンセプトはズバリ! 日本女性にあるべき美しい作法を身につけるための部。名付けて『乙女による華麗なる振舞ふるまいの会』!!」

 

 シャキーンと音が鳴るかのように、夏帆姉が人差し指を天に掲げ、ポージングをとる。


「長いし……よくわからないし」


「要は、自分の魅力に気づかない乙女たちをバックアップしていく部活なのね」


女によるなる振舞の……略したら『おつかれ会』じゃん」


「あはっ☆ 面白い、それ」


「いや「あはは」じゃなくて。そんなん、誰も入部しないでしょ」


「おっ! いいとこに気づいたね! 実はそこがポイントなの」


 そういうと、夏帆姉が含み笑いを浮かべる。


「表向きはまぁ、適当にそれっぽいものにして……裏では柚希君とお姉ちゃんだけがイチャイチャ、あはは、うふふできればそれでいい部活なの」


「はぁ!? いや、それは部活としてダメでしょ! そもそも入んないし」


「柚希君は部活立ち上げる際の初期メンだよ?」


「えっ!? いやいや、そんな部……部活として承認されないって。それに部費の申請とか、顧問の依頼とか、立ち上げは色々大変なんだよ」


「お姉ちゃんを甘く見ないでほしいですね~。ちゃんと部活申請及び受理の書類がここにあります」


「そ、そんな馬鹿な!?」


 俺は、すかさず夏帆姉がちらつかせた書類を奪いとる。学校印も押されているし、部員欄には俺と夏帆姉の名が。そして顧問名もしっかりと記載されてある。どうやら正真正銘の書類のようだ。


「顧問は茶道部の先生に、掛け持ちしてもらえることになりました。で、部室はもちろんここ。今は誰も使ってない元『華道部』の部室を使っていいって」


「でも、部員二人ってのはどう考えてもアウトでしょ。新入部員が入らなくて、廃部の危機っていう部活も知ってるんだから」


「まぁ、その辺はねじ伏せました」


 ね、ねじ伏せる? 学校側を? 

 相変わらず底知れぬ力を秘める夏帆姉に、俺は戦慄したのであった。

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