第24話  おつかれ会

「も、もしかして、昨日一緒に帰れなかった理由って……」


「そ、部活の交渉のため」


「そんな簡単にいくものなの? 一生徒の分際で?」


「柚希君? お姉ちゃんはこれまでどこの学校に通っていましたか?」


「け、県内有数のお嬢様学校でしょ?」


「ふふん、総理事であるおばぁ様の名前出したら一発だったよ。交渉時間、たったの数分。ね? お姉ちゃんってできる子でしょ?」


 まさか夏帆姉の祖母こと『おばぁ様』の名前まで出すなんて。信じられない。大きな力に屈するべく、教員たちの涙目姿が目に浮かぶようだ。


「本当に昨日はごめんね。でも、これからはもっと一緒だよ」


「……」


「柚希君との部活……うふっ、世の中やり方一つだね~」


「……いやだ」


「二人きりの部室でなんて……キャッ! 柚希君のエッチ」


「いやだっての!」


 俺は叫んだ。

 窮鼠きゅうそが猫に歯向かう訳ではないが、さすがに納得がいかない。たった一日で、しかも水面下で何をしてくれているのだ、この人は。このレベルは異次元を超えてもはや四次元……四次元ポケットである。猫型ロボットも文字通り真っ青である。


「高校に来ただけでなくて、俺の青春まで束縛そくばくすんのかよ!」


 勢いのまま、俺は止まらない。


「俺がこの数日、何のために部活の体験を頑張ってたと思ってんだよ。普通の子を彼女にするためなんだよ!」


「あー! それで例のダイオウグソクムシと知り合ったんだね!」


「グソクムシは失礼でしょうが。岸辺さんはその、色々あって恋愛対象からは除外したけど、とにかく俺は普通の彼女が欲しいの! そして夏帆姉とはさよならするんだ!」


「ダメ!!」


「ええっ!?」


 珍しく夏帆姉も語気を強める。


「思えば、お姉ちゃんは今まで甘かったと思うんだ。柚希君のためだと思って、少し控えめすぎてたんだよ」


 いや……そうでもないと思うが。いつもアプローチバリバリだったじゃん。


「これじゃあ負けヒロイン方面に向かうばかりだし、それにつけこんで柚希君を狙うセアカコケグモども……絶対に許せない」


 夏帆姉がヤンデレ化している。


「柚希君は絶対、ぜーったい、誰にも渡さない。お姉ちゃんは覚悟を決めました」


 いつも以上の迫力に圧倒され、壁にどんどん追いやられる俺。この夏帆姉を前に迂闊な行動をとれば確実に殺られる。


「柚希きゅん、お姉たんの人生を半分あげます。だから、柚希きゅんの人生を半分きゅださい」


 言葉おかしくなってないか?


「夏帆姉、待って」


「ダメ、もう待てない。誰かに取られるくらいなら、いっそお姉ちゃんが奪い取る」


 夏帆姉に壁に押し付けられる。そして、夏帆姉の唇がどんどん迫ってくる。


「お願いだよ、ちょっと待って」


「プレイバック♪ プレイバック♪」


「え? 今の言葉……」


「プレイバック♪」


 淡い願いは悪ふざけであしらわれ、俺の唇は夏帆姉の唇にふさがれたのであった。

 窓から差し込む夕焼けの色が、とてもきれいな放課後だった。





https://kakuyomu.jp/users/usawaka/news/16818093078208327314

(挿絵です。良ければ見てね。)

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