第21話 たくらみ その1

「わぁお!!」


 俺は歓喜した。

 お昼時間……なんと、夏帆姉が俺の大好物をお弁当のおかずに作ってきてくれていたのである。イカのバター醤油炒しょうゆいため。そして、保温水筒ほおんすいとうには鳥肉のすまし汁。最高である。


「今日どうしたの? こんなご馳走ちそう


「昨日一緒に帰れなかったお詫びと、交渉がうまくいったお祝い」


「交渉? お祝い?」


「まぁまぁ。食べて、食べて♪」


「そう? じゃあ、ありがたく……いただきます!」


 夏帆姉が作った鳥肉のすまし汁をまず、いただく。


「落ち着く味~」


 体に染み渡るなんとも優しい味。続けて、イカバター醤油炒めを食うと、口に広がる大航海時代。これもまた最高にうまし!


「ああ、美味しい。幸せだぁ」


「うふ、私も幸せだよ。柚希君のその顔を独り占めできるもん」


 夏帆姉がお弁当を食べる俺を、満面の笑みで眺めている。その笑顔に、俺はどこか寒気がした。

 よく考えてみれば、昨日は岸辺さん関連の件でそうとう不機嫌になっていたはず。なのに、今日は打って変わってサービス満点といのは明らかに不自然だ。


 幼少期からの付き合いだからわかるが、夏帆姉が何かを企むときは俺の野生の感が働く。今回も何かを企んでいるのかもしれない。


「夏帆姉……また何か企んでる?」


「え? どうして?」


「長い付き合いだし、大体わかるんだよ」


「そっか、わかっちゃうか。さすが柚希君だね」


 己の企みを隠そうともしない大胆不敵さ。

 そういえば、小学校の頃、俺の家でクリスマスパーティーを開いた時、好物をたくさん作って皆を喜ばせてくれたが、「花嫁修業はバッチリです」みたいなことを言って、両親に俺との婚約を取り付けようとしていたことがあったなぁ。


「そうやってご機嫌とって、俺をアイドルグループにでも入れる気なの?」


「柚希君のカッコよさはアイドルの枠には収まらないよ。スカウト来ても、お姉ちゃんが逆にNG出すもん」


「……ごめん、悪い冗談が過ぎた」


「あ! ちょっと待って。やっぱりお姉ちゃんプロデュースで、柚希君を最高のアイドルとして輝かせるのもありかも」


「もういいってば。本当に何企んでるの? 怖いんだけど」


「そんなに知りたいなら教えてあげます。ただし、放課後にお姉ちゃんのクラスに迎えに来ること! いい?」


「それは無理」


「ええ!? どうして? 答えを教えてあげるんだよ? こんな親切な黒幕いないよ?」


「だって、上級生のクラスって行きづらいじゃん」


「お願いだよ~。だって、柚希君、最近いつもすぐいなくなるもん」


「隠し事してたのは悪かったけどさ」


「グスン、お姉ちゃん寂しい。たまには一緒にいたい」


「うっ」


 涙ぐみ、上目遣いで何かを訴えかけてくる夏帆姉。まいったなぁ、昔からこれ弱いんだよなぁ。なんだかんだと、結局、夏帆姉のペースに巻きこまれてしまう。


「はぁ……わかったよ。今回だけだよ」


「やた! 柚希君、素敵!」


「もっと言ってくれー!」 


 半ば自棄やけになった俺は、屋上の中心でそう叫んだのであった。

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