第17話 勧誘

 放課後。


 HRも終わり、みなが帰り支度をする風景。だが、今日は何かが違う。

 いつも必ずといっていいほど迎えに来るはずの夏帆姉が来ないのだ。というのも、なんか大切な用事ができたから、今日は一緒に帰れないと、先ほど携帯にお詫びのメッセージと絵文字のスタンプが届いた。


(やっぱり、お昼のこと怒ってるのかな?)


 部活選びや他の女性への接触という、隠し事がことごとくバレてしまった。確かに怒り案件ではあるよなぁ……何かとまとわりついてくる夏帆姉だが、いないならいないで少し寂しく感じる。

 気にしていても仕方がないし、帰ろうかな。かばんを肩にかけ、帰宅する生徒に紛れるように俺も教室を出た。


♢♢♢


 夏帆姉が用事という思わぬ暇ができたとはいえ、運動部の見学に行けばまた岸部さんに出くわしてしまうかもしれない。昨日、あんな態度取っちゃったし……気まずい。


(部活へのやる気もどこかそがれた感じだし、もうあきらめてしまおうか? かと言って、このまま帰宅部に逆戻りもなぁ)


 トボトボと歩いているうちに、気が付けば既に校門の近くまで来ていた。そして、ふと部員募集のチラシがいくつか張られた掲示板へと目が行く。


(フラグの建築も簡単じゃないなぁ)


 ボーッと各部活の紹介文を見ながらたたずんでいる。すると……。


「あああ、あの、ぶぶぶ、部活をお探しでございますか?」


 どこからか唐突に声をかけられた。

 声のした方を見れば、三つ編みおさげ髪で分厚い眼鏡をかけた、見るからにオタクっぽい女生徒が立っていた。かなり緊張した面持ちで、俺に部活紹介のチラシを差し出してきた。


「ご丁寧に、どうも」


 ふむ、女の子から勧誘……声もかけられなかった中学の頃より、わずかだがレベルアップの兆しがみられる。思いのほか捨てたものじゃないのではないか、俺。


「漫画研究会?」


 受け取ったチラシ見てみると『漫画研究会! 部員募集!』と大きく書かれている。漫画研究会というだけあって、チラシのイラストにもかなり力が入っている。


「は、はい。先輩が一人卒業してしまって……部員数が足りないのであります」


 そうか。何も運動するだけが部活ではない。陰キャな俺には文化系が合うのかも。絵を描くだけなら、体を酷使することもないだろうし、案外ラクかもしれない。

 それに、女の子なら漫画好きも多いだろうし。うまくいけばその中の誰かとフラグが立つことも期待できる。まだ部活フラグを諦めずに済むかも。


「よ、よろしければ、け、見学だけでもしていきませぬか?」


「いいですね。じゃあ、せっかくなんで」


 少し乗り気になった俺がそう答えると……。


「ほ、本当でございますか!? やっりぃ、ついに部員ゲットだぜぇい!」


「……いや、まだ入ると決めたわけでは」


「ああ、そうでございましたね。これは失礼致しました」


 ところどころしゃべり方にくせがある人だなぁ。まぁ、世の中にはいろんな人がいるからな。

 俺はおさげの子にいていき、漫画研究会の部室へと案内される。室内は画材道具やら、描きかけの絵などでごちゃごちゃしている印象。普段は美術準備室じゅんびしつなのだが、そこを放課後にどうにか与えてもらって、部室にしているのだそうだ。


「喜べ同士! 体験入部生を連れてきたぞー!」


 部室には女生徒がもう一人。ショートカットの髪型で少し清楚な感じが漂うが、分厚い眼鏡がそれを帳消しにしている、これもまたオタクっぽい女の子だ。


「西ティ部長が男を連れてきた……」


「ふふふ。私が本気を出せば男子の一人や二人、勧誘するなど容易たやすい」


「さすが西ティ! すごみー!」


「ありがたみー!」


 なんの合言葉なのだろう? まったくついていけない。

 それに期待した女の子もあまりいなさそうだし……そういえば、部員足りないとか言ってたな。しまったなぁ、選ぶ場所を間違えたかもしれない。

 俺は、いささか不安になったのであった。

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