第34話 部室紛争

「ルンルン~♪」


 午前の授業を終え、スキップ気味で部室へと向かう俺であった。

 よくよく考えてみれば、部室ってのはいいもんである。お昼に好きな音楽も聞けるし、テレビとかも見れるし、まわりの目を気にしないでマイペースで過ごせる。さらにさらに、お昼寝だって寝転がってできる。こんな良いものなら、中学校も部活に入っとけばよかったなぁ~なんて、のほほんと思う今日この頃。


「夏帆姉いる~?」


 ガラガラとドアを開けてみると、途端に視界が暗くなる。


「ぐぁっ!」


 なにかしらの衝撃に、顔面に鈍痛どんつうが走る。いててて……顔を抑えながら確認してみると、どうやら部の備品のようだ。


「この、なんちゃってニセホタルイカモドキダマシ変態前のくせに!」


「なによ、それ! 原型全くないじゃない!」


「なんで、あなたが私と柚希君の愛の巣にいるの!?」


 室内ではガルルルと火花を散らす夏帆姉と岸辺さんがおり、備品を互いに投げ合っていた。


「部員申請したじゃない! 仮入部よ、仮入部!」


「認めないもん!」


「部長なら広い心を持ってよ!」


「そんな心で柚希君を狙う輩を受け入れるくらいなら、私は鬼でいい」


「さすがマッド・デーモンね」


「とにかく出ていきなさい! これから柚希君とお昼食べるんだから!」


「私だって部員になりたいの! 部室に来る権利くらいあるじゃない!」


「ない!」


「顧問は受理した!」


「私は受理してない!」


 さっきの、のほほんとした俺はどこにいったんだ? 予期せぬ紛争に遭遇しまったことに戦慄していると、銃弾飛び交う戦場が如く、また互いに備品を投げ合う。

 この人たち、よく当たらないなぁ。運動神経や動体視力のなせる業なのだろうかなどと、なりゆきを見ていると、攻防はどんどんエスカレートしていき、最終的に二人ともイスを持ち上げだした。


「ストップ、ストッープ! 二人とも部室が壊れるよ!」


 この展開はさすがにまずいと、慌てて止めに入る。


「あっ、柚希君♪ おかえり♪」


「やぁ、沢藤君♪」


 にこやかな笑顔で俺を迎えてくれる二人だが、持っているもんは物騒極まりない。


「呑気に挨拶なんかしてないで……その物騒なもんを下ろしてよ」


 二人とも俺の言うことは素直に聞くようで、イスを下ろしたはいいものの……なおもいがみ合ったままである。


「喧嘩なら外でやってよね。部室は俺のユートピアなんだから、荒らされたら困るよ」


 俺はテキパキと散乱したものを片付けた。


「へぇ、沢藤君って結構几帳面なのね」


「潔癖とまではいかないですけど、けっこう綺麗好きなんで」


「柚希君、柚希君」


 夏帆姉が肩を叩いたかと思うと、目の前でなんかいろんなポージングを決めだした。俺に「綺麗だよ」とでも言わせようとしているのだろうか。


「はぁ、岸辺さんどう思う? この人……」


 岸辺さんを見ると、この人もまたなまめかしいポージングを取り出した。くそ、毎日これらに対処していかねばならんのか、俺は。ガックリと肩を落としたのであった。

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