第19話 鑑賞会

「あの~、俺ちょっと用事が……」


 なんか関わったらまずそうな案件なので、俺はその場を立ち去ろうと試みる。


「あああ、あの! 話が飛躍しすぎて申し訳ないのであります。今のこと、どうか先生にはご内密に!」


 西田さんが俺の足にしがみつき、懇願する。

 来たばっかの奴にそんな内部事情を暴露して……良くも悪くも人を疑わなさすぎではなかろうか。


「別に言いつけやしませんよ。ただ、俺は……」


「そういえば、こっちが話すばかりで沢藤殿のことを聞いてなかったであります。もう少しだけお付き合いいただけませぬか?」


「ニシティも私も初めての体験入部生だったもんだから、つい暴走しちゃって」


「いえ、先輩方は正直な話をしてくださっただけですし」


 なんかこのまま帰るのも気の毒なので、俺は今一度椅子に座りなおす。


「見学に来てくれたということは、多少なりとも漫画に興味はあったのですよね?」


「う~ん……漫画やアニメはよくわからないですが、でもチラシのイラストには惹かれるものがありましたね」


「本当でありますか! あれ、私が描いたのであります!」


「へぇ~、西田さんが」


「沢藤殿もすぐにあれくらい描けるようになるでありますよ」


「いやいや、俺なんてとても……」


「いいえ、そんなことはありません。最初からできる人なんていないでありますし、頑張りで何とでもなるであります」


「そんなもんですかねぇ?」


「そんなもんであります」


 西田さんの目が輝いてる。そういえば夏帆姉がいつも俺を見る目もこんなにキラキラしてた様な。だとしたら、やっぱり漫画やアニメが好きなんだろうな。多少、制作しているものに性的描写があるからといって……こちらもセンシティブすぎたかもしれない。


「そうだ! せっかく時間取ってもらったんだし、堅い話は一旦置いて、少しでも楽しんでいってもらおうよ」


「むむ? 楽しむって、何をするであります?」


「研究にはお金を惜しまないがウチらのモットーでしょ?」


「ああ、そうでありましたね」


 そういうと、西田さんと国見さんは部室の奥の壁をはずす。そこは大量のDVDが収納されている隠し棚であった。


「少年漫画バトルものから転生もの、ラブコメ、話題作など色々あるでありますよ」


「へぇ~、すごいですね」


 お店のような品ぞろえに、つい感心してしまう。


「どれか興味あるのない?」


 そう言われても、逆にありすぎてわからない。


「おすすめだと、この悪役令嬢転生ものはどう?」

 

「ダメでありますよ、国ちゃん。殿方は俺TUEEEものでなければ」


 またも専門用語が飛ぶ交う。


「あ、これ」


 俺が見つけたもの。

 それは、ゲーム空間に入ったものの、ある陰謀で抜け出さなくなったキャラたちがそこから抜け出すために戦いを繰り広げていくというアニメであった。なにかでチラッと見た覚えがある。


「お、さすがはお目が高い! それは最近届いたものなんでありますよ」


 西田部長が食いついてくる。


「ちゃんと公式から買った純品であります」


「よし! じゃあ、これで鑑賞会といきますか」


 西田さんと国見さんがいそいそとパソコンとプロジェクターをセッティングする。たぶん一人だと見ることはなかったが、せっかくの機会なのでご厚意に甘えておくとしよう。

 こうして、急遽、漫画研究会主催の鑑賞会が行われたのであった。

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