第7話 部活えらび

 その日の放課後。


 俺は魔の誘い(夏帆姉と一緒の帰宅)から逃れるように、そそくさと教室を去った。お昼に発見した事案、部活えらびへと出向くためである。


「事前に先生からもらった部活紹介リストによると……」


 ふむふむ、運動部に文化部と結構な数の部活が載っている。手始めに、まず運動場へ行ってみようかな?

 実はこうみえて俺、かなりの陰キャである。友達もいないし、人とのコミュニケーションはあまり好きではない。そんな俺に運動系の世界は一見厳しいように思えるが、もちろん、そこは思惑おもわくあってこそである。そう、マネージャーや先輩女子とのフラグ建築が目的だ。スタメンに抜擢ばってきされれば彼女確定ルートだし、うまくいけばクラスでの評判も回復できるかもしれない。


(よしっ! 行くぞ!)


 俺は意気揚々いきようようと各運動部に体験入部を申し入れたのであった。


♢♢♢


「おい、そこ! 新入生、ボール行ったぞ!」


「はっ、はい! あだぁ!」


 ろくに経験もないのに、いきなり野球部はハードルが高かったかもしれない。フライを見事に顔面キャッチし、脳震盪のうしんとうを起こしてしまった。

 それから、サッカー部では足をひねり、テニス部では肩を痛めてしまった。どの先輩もあわれみを浮かべた表情で「もっと君に合った部活があるよ」と遠回しに入部を拒否きょひられてしまう。

 すでに満身創痍まんしんそうい。次に、陸上部の体験入部をする予定だったが、俺のボロボロの体を見た先輩に「見学だけにしてくれ」と懇願こんがんされる。仕方なく、陸上部の活動を体育座りで見ていることにした。


(部活ってのは厳しいんだなぁ)


 これまでの帰宅部生活が悔やまれる。もうすこし頑張っておけばよかった。

 しばらくボーっと陸上部の練習風景を眺めていると、トラックを颯爽さっそうと駆け抜けていく女性に目がいく。あの風のような走り方……一人だけどう見ても異次元な走りだ。エースの方だろうか?


「すいません、あの人の名前は何でしょうか?」


 気になった俺は、近くにいた先輩にたずねてみる。


「ああ、岸辺きしべ史子ふみこさんね。彼女、スポーツ万能で有名なんだよ」


「へぇ~、そうなんですねぇ」


 聞くところによると岸辺さんは2年生らしい。少しボーイッシュな青のヘアースタイルに、引き締まった体。そして走るたびに程よく揺れる胸がかなり魅力的だ。


 こんな人が彼女になってくれたら最高かもしれないなぁ……と、ふと願望が出てくる。だが、これだけ有名人だと男子が目を付けないわけがないか。運動部のアイドルは競争率が激しそうだ。


 モテレベルが低い俺には、いささか高嶺の花が過ぎたな。とりあえず今日だけはたっぷり岸辺さんを堪能させてもらおう。


 こうして、本日の俺の体験入部を終わった。

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