第19話 性欲チェックされた!?

 夕暮れの街道を、僕らはゆっくりと歩んでいた。

 天音の歩幅に合わせつつも、げんなりと肩を落としてしまう。

 ゴールデンウィークの勉強合宿、その最終日もようやく終了したのだが……まさか天音が迎えに来ているとは想定外だった。ラインでそのような戯言を言っていたが本気だったとは……。


「こーんな可愛い後輩がお迎えしてくれてるのに、なーにが不満なんですかねっ!」


 心を読まれたのか、天音は口をとがらせていた。


「…………もはや『可愛い」がパワーワードになりつつある。自由奔放とか傍若無人とか、もっと似合いそうな言葉が――痛いわッ!? 不満を漏らしただけだろうが!?」


「っ〜〜〜〜〜〜! このっ、このっ、先輩なんてそのうち刺されちゃえばいいのにっ!」


「不穏すぎるんだろ!? てかそろそろ殴るのやめてもらっていい? 普通に痛いからな!?」


 殴られるだけの攻防戦が終わると、横腹をさすりながら天音を窺う。

 学校で待機していただけあって彼女は制服姿のままだった。身軽そうな荷物から推測するに、家に来るつもりはあっても宿泊するつもりはなさそうである。

 過密なスケジュールのせいで正直疲弊しきっていたので、内心歓喜してしまう。


 勉強合宿での仔細を問われたりと紆余曲折はあったものの、半分くらい(宮寺とあのパンツの子)はぐらかして体験したことを伝えながら、ようやく根城へと帰還した。

 した、のだが……天音はスカートのポケットから、”銀色の物体”を引っ張りだした。


「ははは、いや、疲れすぎてとうとう幻覚が……おいそれ、うちの鍵だろ……」


「てへっ♪」


「てへっ、じゃねーよ! それどこから入手したんだよ吐け!」


 彼女の両肩を掴んで、ぐわんぐわん揺らしてやると金玉を蹴られる。

 いや、それは両方の意味でアウトだろうが……。

 股間を必死に押さえながら悶えていると、天音はあっけらかんに言い放った。


「いかにも貴重品閉まってそうなタンスからスペアキー発見しちゃったんですよね〜! 先輩、ちゃんと強盗対策しとかなきゃダメですよ!」


「自白しといてなにちゃっかり責任転嫁してるんだよ!? 強盗が強盗対策とか口にすんなっ!」


 そう息巻くと、天音は小首を傾げた。


「ほぇ? だって先輩が『合鍵作りたいのでスペアキー借りてもいいですか?』、って聞いたら『うん……』って許可してくれたじゃないですか」


「僕がそんな許可出すわけないし、捏造もいい加減に……」


「それ先輩の記憶違いですよ。だって先輩が寝ぼけてる時に『おっぱい揉みたくないですよね?』、『パンツ見たくないですよね?』、『合鍵作りたいのでスペアキー借りてもいいですか?』って質問責めしたら見事に『うん……』としか言いませんでしたもん。あ、なんかムカついてきたのでもう一回ちんちん蹴ってもいいですか」


「きたねえ手口だな!? …………あと、もう蹴るのはやめてください」


「てへっ♪ それよりご近所迷惑なので、そろそろ中入りましょ!」


 ここがさもマイハウスだと言わんばかりに、天音は合鍵を使用した。

 いやまぁ、元々渡すつもりではいたからいいんだけどさ……コイツ、どうせ毎週訪問してくるし、いちいち鍵開けにいくのもめんどくせぇし。

 きっと天音はそこまで読んでの行動だったのだろう、ということにして玄関を潜った。


 寝室に入ると荷物を投棄して、勢いよくベッドにダイブする。

 疲労の限界だし、睡魔が寝ろと囁いてくるし、まだ休日は続くのだ……この三重苦に抗うすべは、ない。過重な瞼をゆっくりと閉じていくと――シュルシュルと布が擦れるような音がした。


「せ〜んぱい? なに勝手に寝ようとしてるんですか。性欲チェックがまだ済んでませんよ?」


 天音のあざとさ満開ボイスが聞こえてくるが、意識はすでに遠のいている最中。

 彼女の世迷言はとりあえず無視して、寝息を立てようとすると……。


「げふっ――」


「せんぱぁい、夜はまだまだ長いんですからぁ……まだまだ寝かせませんよ、はむっ♡」


 下着姿の天音が、僕にのしかかってきた。

 肺を圧迫されるようにむせながらも、耳を甘噛みしてくる彼女を追い払って、ぷはーと深呼吸する。


「あーっ、せっかくこれから耳舐めしようとしてたのにーっ!」


「な、ななななななにしてるんだよッ!? てかなんで真っ裸!?」


「いえ、ちゃんと下着付けてます……ハッ、それは遠回しに脱げと!?」


「ちげぇよたわけがッ! 冷静なツッコミとか要らねぇし! そうやってわざと曲解するなよ!」


 毛布を投げつけて露出部分を隠してやると、天音は口をすぼめた。

 ただでさえプロポーション抜群なんだからやめてくれよ……と、心中で呟きながら動悸を抑えようとする。心臓がいくつあっても足りないわ、マジで。


「……僕だって男子高校生だぞ。胸が当たればドキマギするし、太ももにだってそそられる……から、今後はもうやめてくれよ」


「それはフラグですか」


「だからちげぇよたわけがッ!」


 ついでにまくらも投擲してやると、天音はプンプンしながら指差した。


「ふんだっ! 先輩だっておちんちんこーんなに大きくしてるくせにっ! 性欲だけはほんっと正直ですねっ!」


「誰のせいだよ誰の!?」


「じゃあ責任取って鎮めてあげますよ! これだけ元気なら襲ってなさそうですし、隠し事もなさそうですしっ!」


 そう言うと、天音は手をバナナを握りしめるようにして上下に動かした。

 ついでに舌をぺろぺろとキャンディを舐めるように出している。


「っ〜〜〜〜、も、もう風呂入ってくるからッ! そのうちに着替えとけ!」


「はーい。あ、シコシコするならお風呂じゃなくてトイレでしてくださいね〜?♪」


「しねーからな!?」


 僕はベッドから離脱すると、そそくさと浴室へ向かった。

 やけに体が火照って、赤面していることすらも自分で自覚できる。

 踏んだり蹴ったりな仕打ちと、膨張した竿に苛まされながらもシャワーを浴びるのであった――。

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