第12話 パンツに苛まされる!?

「ふわぁ~、勉強合宿ってこんなに大変なんだね……もうクタクタで動けないよ……」


 寝室に戻ってきた宮寺は、ぐったりとベッドに倒れ込んだ。


 あれから昼食後、ようやく勉強合宿が開始したのだが……その内容ただの自主勉強であった。

 講師陣によって作成された難問集プリントをひたすら解いていくだけの単純作業。普段の授業範囲内で答えられるようなものから、参考書を余程熟読していなければ解けないものまであり、宮寺は「鬼畜の所業だ」とか嘆いていた。


 もちろん去年もここで受講していた僕は承知済みだったのだが、初参加の宮寺はそれが相当堪えたらしい。


「明日からは午前中にも勉強あるし、へばってる場合じゃないぞ」


「うう……切実に現実逃避したいです……」


「帰宅したい生徒は帰れるけど。毎年それなりに逃げ出すやつもいるし」


「帰らないけどね!? 追い討ちしないでそっとしといてよー!」


 宮寺はふくれっ面になると、足をジタバタさせた。翻りそうになるスカートから視線を逸らして、彼女の顔にちょんとペットボトルを当てる。


「やるよこれ。さっき買ったばかりだしまだ飲んでないから」


「む、ありがと……ふわぁ、ちょっとだけ仮眠しようかなぁ」


「いいんじゃないの? 僕はシャワー浴びてくるから、戻ってきたら起こしてあげるよ」


 そうやってカバンからパジャマを引き抜こうとすると、宮寺から一瞥されたような気がした。


「ね、寝ちゃうんだよわたし……?」


「……? だから起こしてあげるけど」


「む、無防備なんだよ……?」


「……そう、だな?」


「無防備だからね!?」


「なんで二回言った!?」


 上手く意図が伝わらなかったらしく、宮寺はまくらを投げてきた。それを戻してやるとキリッと睨まれたが、シャワーを浴びたかった僕はそそくさと寝室を退室する。


「なんだったんだよ、全く……」


 そうボヤきながら廊下を進んでいくと、向かい側から小さな少女がこちらに歩いてきた。

 比喩表現でもなんでもなく、天音より一回りほど小柄な体型だったのだが、異様にも大人びたオーラを纏っている。


 姫カットの髪型も、ダークパープルの髪色にも見覚えがあったので恐らく同級生だろうが……とても目を惹き付けられた。

 ヤンデレとかメンヘラとか、そういう言葉が似合いそうな可愛い子である。


「…………あ」


 彼女がすれ違うと同時に、"黒いモノ"を落とした。自分でも驚くほど彼女に視線を集めていたことを自覚させられたが、それが後に後悔となる――。


「これ、落としましたよ」


 "黒いモノ"を手にして、それを広げたタイミングで彼女はこちらに振り向いた。

 広げたそれは、"黒色のパンツ"で――それはもう、沸騰したかのように赤面して彼女はパンツを剥奪してきた。


「っ〜〜〜〜、女の子の下着に容易く触れるなんて最低かな!?」


「お、おう……無神経だったな、悪かったよ……」


「謝罪する前に名前くらい名乗ったらどうかな!?」


「成瀬咲人ですけど……えっと、ごめん?」


 なぜか激情する彼女に罵倒されて、気圧されながらも謝罪を入れた。加えて、下着くらいでは動揺しなくなっていたことにげんなりする。

 てか、かなってなんだよかなって、ぶりっ子かな? 

 そう語尾に違和感を抱きつつあると、彼女は悶えながら周章狼狽しだした。


「あーもうっ最悪かな……誰にも見られてないかな? 大丈夫かな? このことがバレたらヤバいかなぁ……」


 しばらくうろたえてから、彼女は大きく息をついた。


「このことは口外禁止かな! もし約束破ったら妬まれるかな!」


 それだけ言い残して彼女は去っていった。


「…………自分は名乗らないのかよ」


 それにしても、妬まれるとはどういうことなのだろうか。

 彼女が『恨むから』じゃなくて、第三者から『妬まれる』と意味を含めていたような気がしたが……もう関わることないだろうし、まぁいいか。


 色々と疲れすぎたので思考停止し、早々にシャワールームへと向かうのだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る