第13話 駆け落ちしてるんだが!?
(天音)せ~んぱいっ! そろそろ私に会えなくて寂しくなる頃合いですよね!
(咲人)はいはい、さみしいさみしい
(天音)適当な上にめんどくさくて変換すらしてないじゃないですか。怒ったので明日迎えに行きますね
(咲人)げ、いいよ別に……ゴールデンウィークくらいゆっくりしとけよ
(天音)気遣ってもない気遣いは要りませんから!
勉強合宿も最終日前日を終えようとしていた。
時折、宮寺が不機嫌になることもあったが、男女同室という異空間もどうにかやり過ごせている。宮寺の着替えを覗いてしまったことの詳細は割愛するが、それを除けばむしろ順調と言えるだろう。
そんな僕はベッドに寝そべりながら、顔を引きつらせていた。
近状報告を義務付けられたのでこうしてラインをしているのだが、文章ですら思考回路を読まれてしまうことに畏怖する。
(天音)げ、とか書かれてるのに騙されるわけないじゃないですか。あ、メッセージ取り消ししましたね最低!
ふっ、と声を漏らしてしまう。
(咲人)うるせ、とりあえず迎えはいいから。用がないならもう寝るぞ
(天音)その寝るが意味深発言だったらぶち殺しますからねっ♡ 先輩の性欲もそろそろ限界でしょうし!
(咲人)ちげぇよ……熟練された僕の理性舐めるなよ
(天音)ふーん、そういうことにしといてあげまーす。それも含めてチェックするので覚悟しといてくださいねっ!
「ただいまー……って咲人くん、なにその顔!? なんかおかしいよ!?」
「うぉ!? み、宮寺、戻ってきたのか……」
シャワーを浴びに行っていた宮寺が寝室に戻ってきたが、あまりにも表情が緩んでいたのか小馬鹿にして笑ってきた。
あまりにも不意打ちすぎて頓狂な声を荒げてしまったが、それ以上に気恥ずかしさに襲われる。
「どーせ天音ちゃんでしょー? 咲人くんもわかりやすいよねっ!」
「そ、そんなことはないが……いや、当たってるから否定できないけど」
「二人がどうして付き合ってないのか不思議だよー」
「天音はただの毒舌でウザい後輩だ、それ以上でも以下でもない。そう言われるのが不思議だよ」
宮寺は「へー」と全然信じてなさそうに返事した。
そして彼女は着替えが詰められている袋をベッドに放り投げる。
「じゃあさ、わたしとの散歩に付き合ってよ。遠慮するなって言ったの咲人くんだから、拒否権とかないからね!」
そうやって宮寺は意気揚々と僕の言質を振りかざすのだった――。
***
「玄関からじゃなくて非常階段からか、この短期間でよくバレない方法思いついたな」
「名探偵しずくちゃんにかかればこんなものだよーっ」
「探偵じゃなくて、むしろ泥棒だろ」
非常階段を降りながらそう言うと、宮寺はあからさまにムスッとした。
煽てられたかったのだろうが、清々しいほどのルール違反だ。教師に見つかれば小言では済まされないだろう……僕も晴れて違反者の仲間入りなわけだけど。
「まぁでも、気持ちはわからんでもないけどな」
バスで外出禁止だということを知った宮寺はかなり不貞腐れていた。
あの海辺まではそれほど距離があるわけじゃないし、綺麗だったから間近で見たいのもわかる。
施設を抜けると、静寂に包まれた夜道をゆっくりと進んでいく。
観光地なだけあって電灯や案内看板は至るところにあり、迷うこともなく海辺へと出た。すると宮寺はバス内でのように瞳を輝かせて、堤防の階段を降っていく。
「ほら、咲人くんも早く! すっごく綺麗だよ!」
昼間のように海水が透けているわけでもないが、月光を反射させている夜の海波もまた、神秘的だと感じさせるほど美しかった。
これで水着にビーチサンダルを着用していれば、文句なしなんだけどな……と、つい頬が緩んだ。
「わっ、やっぱり砂浜だとちょっと歩きづらいな」
「勉強ばっかでろくに体動かしてなかったもん、しょーがないよー。コケて怪我しないでよね、先生にバレちゃうから」
「心配してくれたって一瞬勘違いした自分を殴りたい……」
「あはは、それよりあっち側も行ってみない?」
ずっと続いている海辺を散策したいらしく、遠方を指差した。
承諾の返事をすると、僕らは横並びで歩を進めだす。
「下手をしたら帰るころには鍵閉められてそうだな」
「う〜ん、そうしたら二人で駆け落ちでもしちゃう?」
「逃亡生活が終了したら怒叱られそうだけどするか、駆け落ち」
「えっ、いいの!? 咲人くんも冗談とか言うんだね!?」
自分から提案してきたくせに……ロマンチックな雰囲気に呑まれていたのは確かだけどさ……。
宮寺はおちょくるように「えへっ」と目を細めて笑みを浮かべてくるので、僕はそっぽを向いて対抗した。
「咲人くん負けず嫌いだから、天音ちゃんにはこんなこと絶対言わなさそうだねっ」
「死んでも言わん。駆け落ちじゃなくて駆け堕ちとか洒落にならないから、マジで」
「なにそれー、へんなのっ!」
宮寺のツボにハマったのかしばらく背中をぺちぺち叩かれたが、それも収まり波打ちの音がやけに大きく聞こえた。
「ねね、咲人くんと天音ちゃんって初めからそんなだったの? よかったら散歩がてら聞かせて欲しいな」
宮寺は僕をしっかりと見据えて、そう尋ねてくる。
普段であれば過去の闇を暴露することなどなかっただろうが、僕は柄にもなく天音と出会ったころの記憶を語ってしまった――。
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