第20話 後輩に唆されている!?
ゴールデンウィークが幕を閉じた。
勉強合宿以外では天音につきまとわれたが、長期休暇という名目なだけあって多少は羽を伸ばせたような気がする。むしろ、天音からの侵略がなければ満点だっただろう。
ちょっとばかし天音のことを憎みながらも登校していると、力強く背中を押された。
「せ〜んぱいっ! おはよーございますっ!♪」
「……天音か」
「反応薄すぎませんかね!? こーんなに可愛い天音ちゃんとばったり遭遇したんですよ!? もっと喜んで然るべきですっ!」
「あざといしもう慣れたわ……」
「倦怠期を迎えたカップルみたいな発言やめてください、私まだ処女膜貫通してもらってすらないですよ!」
彼女は公共の場であるのに平然とそう言いのけた。森閑とした通学路のため、周囲の人間からひそひそと騒がれる。無論のこと、うちの生徒にも会話を目撃されていたため学校内で話題にされること間違いなしだ。
「私はず〜っと待ってるんですから、そろそろ犯してくれてもいいんですよっ?♡」
もはや呆れてため息すら出ない。
足取りを早めると、「無視しないでくださいよ〜」と天音が追っかけてくる。
「…………こうやって先輩を唆してるのって、他の女に取られないためですから。勘違いしないでくださいね、泣いちゃうので」
天音は俯きながらそう告げた。
そんな彼女の表情から、どこか不安そうな様子が窺える。
コイツの術中に嵌められていたことは、もちろん気づいていたが……その行為は日が経つにつれて夥しくなっていたのだ。少なくとも中学時代の天音は、こんな大胆な行動は取っていなかった。
加齢に伴う心境の変化か……あるいは、言葉通り危惧しているだけなのか。
天音は依然として憂愁に沈んでいたが、彼女を安心させられる、慰められる言葉を残念ながら僕は持ち合わせていなかった。
喜ばせるくらい、きっと造作もないのことなのだろう。ただ天音のことを恋愛対象として見れていないのに、僕がそれをするのはあまりにも無責任だ。
「……ひゃっ!? ちょ、ちょっと先輩、な、なにしてるんですかぁ!? や、やめて、くだひゃいっ」
だからまぁ……喜ばせれずとも、笑わせるくらいなら。
彼女の両脇をくすぐると、抵抗しようと脇を塞いでくる。しかしながら僕の両手はしっかりと獲物を捉えているので、天音の抗いも意味を成さず。
「ご、ごめんなさい、ゆ、許して、くださいっ」
しばしせめぎ合いをすると、降参の意思表明をされたので解放してやった。
「もうっ、先輩のばかっ! あほっ! おちんちんっ!」
「おい最後のだけおかしいだろ!?」
そう抗議すると、天音はクスッと微笑んだ。
やっぱり、笑ってる時が一番可愛いな……なんて不意にも思ってしまう。
「…………(そろそろ、真剣に向き合わなきゃいけないよな)」
彼女と高校で再会してからおおよそ一ヶ月。
中学時代の天音とは比較できないくらい大人びてて、可愛くなってて、その分ウザさも倍増してて。でも、それ以上に好かれていた。
中学では天音からのアプローチに悍ましさを感じてしまっていたし、それが僕と彼女との”溝”になったことも事実だ。
でも、理性的になった今ならどうだ?
そのアプローチが恋愛感情の賜物だったことも、現在進行形で好かれていることもわかりきっている。
きっと僕は、このままではいられないことを悟ってしまったのだ。
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