第7話 透けているんだが!?
「はふぅ、先輩が使ってるお風呂、気持ちよかったですっ♪」
風呂を終えた天音が寝室に戻ってきた。
おい、なんでちょっと艶めかして意味深に言うんだよ。その風呂をこれから僕も使うんだぞ。ふざけんなよ。
ちょっとばかし小言を言ってやろうと天音の方を振り向くと、
「…………は?」
「ポカーンってしすぎですよ先輩っ! そうやって期待を裏切らないのほんっとウケます!」
文字のごとく、ポカーンとしてしまった。
それもそのはず、デニムの短パンに白のロンティー姿で戻ってきた天音は、ブラジャーを付けていなかった。
大事なことなのでもう一回言う。
ブラジャーを付けてなかった。
「ば、バカッ!? な、な、なななななんで下着を付けてないんだよ!? え、は!? 意味わかんないんだけど!?」
それはもうガッツリ見つめてしまったが、慌てながら僕は視線を逸らした。
九割ほど曝け出している脚も、綺麗なシルエットをしていてとても蠱惑的なのだが……二つの球体からツンと飛び出ているアレが脳裏に焼き付いてしまった。
「え、下着付けてますけど? ほら――」
追撃するように天音は短パンを下ろして、紫のショーツを晒した。
「あああああぁぁっ、わかったから元に戻せよ!? あとブラも付けろ!?」
「えぇ~、せっかく先輩のためにサービスしてあげたのに~!」
逆に天音から小言を挟まれたが、僕はそれどころではなかった。
……あぁ!? せっかく収まったのにもう逆立ちしてるんだけどッ!? クソぉ!!
***
朝を迎えた。
昨夜はベッド上で天音におちょくられ続けたが、それにもなんとか耐えて。シングルベッドのためどこかしら肌身が触れてはいたが、それにも耐えて。
耐え忍んで、朝を迎えた。
それなのに――起床すると天音は怒りを爆発させていた。
「……先輩、ねぇ先輩? 女からライン来てますけどなんですかこれ? 私のラインはブロックしてたくせに他の女とは仲良くしてるんですか? しかもちゃっかり遊びに誘われてますけど? どういうことですか? ねぇちゃんと説明してくださいっ!!」
寝起きなのにぐわんぐわんと体を揺さぶられた。流暢に質問責めしてるあたり、なにか頭にくるようなことがあったんだろうと予想し……
「ちょ、ちょっと待て……女ってなんのことだ、身に覚えがないんだが……」
なんのことかわからないので、僕はあっけらかんに答えた。
「……は? じゃあこのライン相手なんですか、ていうかこれカラオケにいた人じゃないですか。どういう関係なんですか? 『ねぇ咲人くん、デパートに買い物行きたいんだけど、今日暇だったら一緒にどうかな?』って、完全に異性として誘われてるじゃないですか」
僕のスマホをフリフリと見せつけてくる天音。
簒奪されたスマホを取り返そうと手を伸ばすと、ヒョイと避けられて腕をつねられた。
っ痛!? てかおい、なんでスマホのパスワード知ってるんだよ!?
「……宮寺か。たまに連絡取るくらいなのに珍しいな」
「珍しいな、じゃないですよー! それで、先輩は行くつもりなんですか!?」
「行ったら殺すぞみたいな視線向けられてもな……せっかくの誘い、断るのも申し訳ないし……」
ただ、今回に限れば天音が先着ではある。
宮寺の誘いは嬉しいが、天音のことを見捨てれば僕の世間体が殺されるし……。
寝起きで思考がまとまらない中、僕は一つの結論を導き出した。
「……天音も一緒に行くか?」
――天音はクズを見下すように、侮蔑の視線を送ってきた。
***
「「…………(じ〜〜〜〜っ)」」
両隣にいる美少女二人が、僕を挟んで睨み合っているように見えた。
雲一つだって見当たらない快晴であるにも関わらず、天音と宮寺の表情は曇っている。
「はぁ……これはもう、全部先輩のせいですよね」
「うん、異論なし……咲人くんが優柔不断でろくでなしってことがよーくわかったよ」
「なんで僕のせいにされてるのさ!?」
天音からガシッとスネら辺を蹴られた。
いや、宮寺を適当に誤魔化して天音を連れてきたのは事実だが……。
「せっかく気合い入れてメイクしてきたのに……」と、宮寺は肩を落として落ち込んでいる。
そう言われてみればと、学校での宮寺と少し違うことに気づいた。
前髪はカールがかかっているし、ヘアオイルを使用しているのか鼻腔をくすぐるような甘い匂いが漂ってきたし、メイクもバッチリ決めていた。
天音に至っては一度帰宅し、支度をしてきたくらいだ。それも災いしてか相当機嫌が悪い。
両者ともムスッとしたままデパートに入館し、コスメフロアに到着すると――キラッキラと瞳を輝かせて、二人して飛び出して行った。
「おい……さっきまでのアレはなんだったんだよ……」
そう、口ずさまずにはいられなかった。
最初は宮寺の買い物からスタートするらしく、目当ての場所へとスタスタ連れてかれる。
「――ですか、背伸びしたクソ女が使うイメージですけど」
某有名なブランドコスメコーナーに着くと、開口一番に天音がそう呟き、カチンという擬音が耳に入りそうなほど宮寺が顔をしかめた。
「な、なに言ってるのかなぁ……? リップだとここが抜群に良いのに、それが分からないなんてお子様にデパコスはまだ早いんじゃないかな?」
宮寺が皮肉を込めて反駁すると、天音の目元がぴくっと震えた。
「ふ、ふふふ……クソ女にクソみたいなこと言われてもなんとも思いませんけどね〜っ」
「く、クソっ……!? そ、そういう天音ちゃんこそ――が好きだなんてセンス悪いんじゃない!? 自分が特別だと勘違いしてる女子が好むところじゃん!」
「なっ、そんなことないですよっ! めっっっちゃ可愛いのにこの良さが分からないなんて、年上なのに精神年齢は私以下ですかっ!? 受精卵から人生リスタートした方がいいですよーだっ!!」
「――おい、そこら辺でやめろって! 店員のお姉さんも困ってるだろ!」
「元はと言えば先輩のせいじゃないですかぁ!!」
「元はと言えば咲人くんのせいでしょ!?」
止めようと仲介に入ると、二人して僕を怒りの捌け口としてきた。
「……どうしてこうなった」
やはり、そう口ずさまずにはいられなかった。
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