第31話 立派な歩術かな!?
放課後、僕は特に目的もなく、家の付近にある公園に訪れていた。
かつて天音に”堕とす”と宣言され、祈聖から呼び出された小さな公園である。
何方かと言えば前者のことが思い出に深く根付いていた。ここを通り過ぎる度に天音のことが脳裏に過っていたくらいには、まぁ思い入れのある公園と言えるだろう。
僕はブランコに座り込んで、前後に軽く重心移動をする。
静閑とした公園に鎖の擦れる音が響いた。一人で奏でている虚しい演奏のようだ。天音が隣にいてくれれば、こんな子供の遊具でも多少は楽しめただろうなと思う。
「……天音がいてくれたらな」
「――まるで告白が失敗した人みたいかな」
「うわぁっ!?」
背後から唐突に声をかけられて僕は狼狽した。驚きすぎて危うくブランコから転がり落ちそうだった。
体勢を整えてから背後を振り向くと、そこにはダークパープルの髪色をした小柄な女の子が首を傾げている。
「抜き足忍び足って、古代から伝わる立派な歩術かな?」
「……ひっそりと近づいてきただけだろうが」
「むむむ、その回答はつまんないかな〜」
「つまらないどころかこっちは大慌てだよ……」
いつしかの会話が繰り返されると、祈聖はくふふと面白がっていた。
このやろう……いつしか倍返ししてやるからな……。僕の人生のスローガンはやられたらやり返すだ。今決めた。文句あるか? あ”?
「前々から思ってたけどさ、祈聖はその年になってもこんな公園に遊びに来てるのか?」
前回呼び出しされた時も、普通ならこんな廃れた小さな公園を指定はしないだろう。僕は密かに、『もしかしてまだ公園で遊んでいるのか?』という疑問を抱いていた、こともあった。
祈聖の小柄な体格弄りが半分、率直な疑問が半分。僕は皮肉と真面目さをない交ぜにして彼女に問いかけると――車に衝突されるのもかくやと錯覚するほどの馬鹿力で、思いっきり背中を殴られた。
「おぐはっ……」と惨めな呻き声を漏らしてしまう。ついでに舌も噛んだ。めっちゃ痛い、痛いよ。
クソ、覚えておけよ……という視線を祈聖に投げつけて僕は自分の背中を摩った。
「キラってすごく大人びてる、よね?」
「…………それはそれは、もう大人代表を務められるくらいには」
「手のひら返しが酷すぎるかな〜。ま、子供弄りをしたのはこれくらいで勘弁しといてあげるよ」
「このくらいってどのくらいだよ、めっちゃ痛いんだけど」
「はいはい、痛いの痛いの飛んでけーかな」
「そんな棒読みされても飛んでいかねーよ……」
祈聖は「はいはいかなー」と僕を宥めるようにして、隣の椅子に座ろうとする。
「――あ、待ってくれ。そこは天音の席だから」
「……ここ、一応公共の施設だよね? はぁ」
天音の席。つまるところ、僕の隣は天音でなければいけないと、そう彼女に伝えると祈聖は面倒くさそうに肩を竦めた。
僕の隣席ではなくブランコの安全柵に祈聖は小さなお尻をつけると、自分の太ももで頬杖をつく。僕のことを蔑視しながら、空いた口が塞がらないとでも言いたげに何度もため息をつかれた。
「悪かったって。そんなに怒るなよ」
「怒ってないかな。別にキラは成瀬くんの彼女でもなんでもないし」
「そうだな、君の彼氏役はもう終わったもんな」
「そーいうことかな」
「……それで、祈聖はなんの用でこんなところに来たんだ? まさか僕に会いに来たわけじゃないよな?」
「そのまさかかな。学校出てから成瀬くんのことをこっそりと追って来たんだ」
祈聖は両足をバタバタさせてそう答える。
「……このストーカー女が!」
「ち、違うかな!? キラはただ、ストーキングしてきた人たちの処遇が決まったから、念の為成瀬くんにも伝えておこうと思って付いてきただけかなっ!」
「伝えるだけなら学校でもよかっただろ!?」
「だって成瀬くん、すごく辛気臭い雰囲気してたから! ほらほら、雫も『最近咲人くんが元気ないんだよね』って心配してたかな。意気地なしの雫の代わりにこうしてキラが様子見に来てあげたんだから、感謝してほしいかなっ!」
祈聖はスマホをかざしながら自信満々に口にした。
画面にはメッセージアプリでのやり取りが表示されている。トーク相手は言うまでもなく宮寺であり、見てはいけないものを見てしまった気がする。
さすがの僕も、「お、おう……」と口籠もりながら言葉を濁した。
祈聖は宮寺に扱かれそうだ。心の中で祈聖に合唱をすると、僕は空を見上げて呼気を吐き出した。確かに学内では時間が取れず相談事もろくに出来ないだろう。帰宅方向とは違うのに、こうしてわざわざ足を運んでくれただけで心が温まった。
「ありがとな……その、宮寺にも礼を伝えておいてくれ」
「えへへ、どういたしましてかな」
彼女は安全柵から飛び降りると、上目遣いするように僕の顔を覗いた。
透き通った黒色の瞳が、僕の全てを吸い込むように見据えてくる。
「成瀬くんが落ち込んでるのって、星空さんとなにかあったからだよね?」
「……ご明察だよ」
「そっかそっか。星空さんとなにがあったのか、キラに話してくれるかな?」
「ああ」
僕はゆっくりと、事の仔細を伝えた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます