お弁当②

「で、結局何処で弁当食べるんだよ」

 午前の授業を終え、待ちに待った昼休み。

 この学校に入学してからの初めてとなる、食堂に向かわないお昼を、俺は弁当箱を片手に里香と翔子の後を追う。

「もうすぐ着くから迷子にならない様について来てね?」

「だーれが迷子になんかなるかよ」

 いつも以上にテンションの高い里香の軽口に、俺は苦笑い気味に応じ、言われた通りに着いていく。

 

 俺達三人の内の誰かの教室で食べるのか思った昼食だが、授業合間の休み時間中にグループチャットによる連絡で、何故か登下校で利用する下駄箱前集合を言い渡された俺は、そこで里香と翔子と落合い、二人の背中を追う様に歩いて付いて行く。二人が、というより里香が先陣を機って向かってる先。それは既に度々お世話になっている体育館の方面で。


 始めこそ訝し気に付いて行っていた俺だが、この里香の楽しそうな様子を見ていると、なんだか水を差すのも忍びなく渋々二人の後を追っていた。


「ほら着いたよ! この場所なら人目を気にせず三人でゆっくり過ごせそうでしょ!」

「「……え?」」


 目を輝かせるように自信満々に里香は見えてきた目的地であろう場所を指さし、歩みを止める。

 そこは……何というか聊か昼食を取るのに適しているとは言い難い所で、俺は思わず戸惑いの声を上げてしまった。が、どうやら目的地を知らなかったらしい翔子も、俺の数歩先、里香の隣で同じように困惑した様子の声を上げており。

 その場所は以前俺達三人が出入りした事のある場所。

 閉められた扉の向こうからは、この学校の中ではここくらいでしか嗅ぐことの出来ないであろう、独特の臭いを発しており。

 

「「何故に保健室?」」


 俺と翔子の声とセリフが見事に被ってしまうのも致し方のないだろう。


※※※


「あら、本当に来たのね」

「はーい。来ちゃいました!」


 里香が、今だ釈然としない態度で立ち尽くす俺達を、なかば強引に引き連れて、保健室の扉を開ける。

 するとそこには当然と言えば当然なのだが、里香が怪我をした際にお世話になった白衣を纏う女性が、少し驚いた様子で俺達を見やり。


「以前お話した通り、お昼ご飯を食べるのに、場所をお借りします!」

 以前、という言い方をする辺り、既に里香と白衣の女性――鹿野養護教諭には話を通していたみたいで。


「場所を貸すのは構わないけど、こんな場所で食べてたら、折角のお弁当が不味くなるかもよ?」

 俺達が持つ弁当箱を指さしながらお道化た様に鹿野先生は言い。

「大丈夫です! この三人だけでご飯食べれるなら、どこでだって美味しいご飯が食べられますから!」

 それに親友が作った手料理が不味い訳がありません。などとこそばゆいセリフまで付け足し、胸を張る里香に、これには翔子も恥ずかしそうにしており。


 流石にここまで黙って様子を伺っていた俺も、この場をまとめる為に口を開く。

「すみません。俺達もさっき里香から保健室をお借りすると聞いたばかりなのですが……本当にお借りしても宜しかったのですか?」

「えぇ。たまに他の生徒とかも食べに来たりするし、あまり大声で騒がなければ問題無いわよ。最も、病人が休んでる時は遠慮してもらうけど。幸い今日は誰も横になっていないから」

 そうして視線を保健室の奥。カーテンで仕切られているベッドの方へとちらりと向ける。

 病人が寝てる際は、閉め切られているであろうカーテンは大きく開かれ、そこからは白く清潔そうなベッドが二つ並んでいた。当然そのベッドに横になっている生徒は見受けられず。


「って事でここを使うなら、今日の所はご自由にって感じよ」

 肩を竦め鹿野先生は俺達へと向けていた視線を机の上、広げられた書類へと戻し。


「って事だから、ここで食べよ!」

 里香のウキウキとした声で、俺達はここで食べる事が決定された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る