計画

 その日の夜は、ご飯が食べ終わった後も、俺と翔子はキッチンに立って調理をしていた。

 さほど広くもないスペースではあるが、二人並んで動いていても問題はない。

「亮君、それ取って」

「あいよ」

 掌サイズの弁当箱を手渡しながら、俺は米を炊く為に、手早く準備を始める。


「何合炊く?」

「二合あれば良いんじゃない? 沢山あっても持っていけないし」

「ほいほい」

 

 一合を測れる計量カップで米櫃から掬いだし、炊飯器の釜に二杯分入れて揉み洗いをして。

「タイマーセットしておくからな」

「うん。一時間後でいいと思う」


 言われた通りにセットをし、蓋を閉めておく。

 今回の引っ越しを機に買った炊飯器は、一応三人で暮らす事を想定されていた様で、最大五合まで炊けるファミリー使用となっていた。これはいつの間にか準備されていた物の一つで……今にして思えばこういった家具家電から『一人暮らし』を疑うべきだった気がする。だって洗濯機も冷蔵庫も明らかにサイズ容量が大きすぎるし。


「うん、いい感じ~。後は明日の朝かな」

 そんな事を考えていると、どうやらサラダを作っていた翔子の方も無事切り終えた野菜を弁当箱に詰め終わったようで。

「お疲れさん。にしても弁当を持って行こうなんて、今思えば急だったな」

「食堂人が多くて落ち着かないからね。園原先輩への協力も終わった事だし、里香ちゃんの言う通り三人でゆっくりご飯食べたいって気持ちは私も同じだよ」

「そうだな。それは俺も同じだ」

 

 お弁当を作る。そんな話題が出たのは今日の学校からの帰宅途中。

 一緒に帰っていた里香と翔子に、先輩への協力が無事終了した事を告げたところ。


「じゃー明日からは三人だけでゆっくりお昼ご飯食べたいね!」

 と言い出した里香に、俺と翔子が賛同して、始まった。

 その足でスーパーにより、食材を買い出して。その過程で弁当箱が無いことに気づいて、慌てて追加で買ったり何てこともあり。

 無事今に至る訳だが。


「弁当できた!?」

 声からもウキウキとした様子が分かるほど弾んだ声音でキッチンを覗き見てきた里香。

「取り合えず下準備はな。後は出来立てのおかずとかはまだ入れられないから冷まして明日にでも詰め込んだら完成って所だな」

「おー。なんかワクワクするね!」

「弁当持って学校なんて、遠足の時くらいだったからな」


 中学時代は給食が有った為、日常的に弁当を必要としておらず、遠足などの課外授業の時に何度か持って行った程度の記憶しかない。

 そう考えると、弁当を持っていく行為自体が大分懐かしく感じ、里香の浮かれた気持ちも理解できる。


「楽しみだなぁ~! ……それにしても亮平のお弁当箱大きくない?」

 シンクに並んだ三人分の弁当箱。

 掌サイズの弁当箱が二つと、その二倍以上ありそうな大箱。

 無論その大きな弁当箱が俺の物になる訳だが。

「いや、俺もそう思うんだが」

「亮君は男の子なんだから沢山食べないと!」

 などと宣うのは、意外にも普段は常識人の翔子で。

「いや、それにしてもそのサイズはどうかと思うよ」

「だから買う時に一緒に止めてくれって言ったのに……」

「いや、あの時はそんなもんかって思ったんだけど。改めて見たらちょっとびっくりするよね」


 頬を指で掻きながら、引いたように言う里香に、俺は肩を落とす。

 高校一年の男子がどれほど食べるのかは知らないが、少なくとも俺はお昼からそんなに食べれるか甚だ疑問だ。

 ちなみにこの弁当箱。中身はおかずやサラダのみで、炊いた米はおにぎりとして持っていくつもりである。

 どうせ三人でシェアするのだから、好きな人か好きな量を食べれるように敢えてこの方法を取ったのだが。


「俺のおにぎり要らないから、その弁当箱に米詰め込みたいんだが」

「駄目だよ~。みんなでおにぎり食べよ!」

 ……もしかしたら明日は胃薬が必要かもしれない。買ってないからないけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る