協力
「で、ぶっちゃけどっちが本命な訳?」
「いや、どっちが本命とかないですよ……」
彼女達は大事な友人です。
そう答える俺に、目の前でボールペンを片手に、器用にもラーメンを啜るのは――園原先輩。
昼休みの食堂。約束通りに昼食を奢ってもらいながら、隅の方の席を取り、先輩が書く記事の為、情報提供の協力を行っているのだが。
「……絶対信じてないでしょ」
「もちろん」
先ほどから俺の返答がお気に召さないのか、つまらなげに俺と手元のメモ帳を交互に見ては、ため息を繰り返す彼女に。
「あの、文句があるなら、このお話はなかったということで――」
「あぁっ! だめだめ嘘うそ! ジョークだようんうんっ!」
首をブンブンと振り回り、ふわふわとカールする髪を暴れさせ、先輩は必至な形相で立ち上がろうとする俺の引き留める。
「もー。ほんの先輩の小粋なジョークなんだから、本気にしたらヤダよ?」
その割にはつまらなそうな表情でしたけどね。
「あははっ」と分かりやすい作り笑いを浮かべ、「ほら次の質問いくよ」と前置きをする園原先輩。
こうしてお昼を一緒にしているからこそ分かったことだが、彼女は基本的に幼い。
それは姿や言動が、という意味でだが。無論たまに年上らしい事を言ったりしていたが、恐らく素はこっちなのだろう。
身長は里香より頭一つ小さく、女性らしい発育もあまり上手くいっていない様子。
ただ、小動物めいた可愛さもあり、それなりに異性受けしそうな様相をしている。
これで、出会いがあんなでもなければ、普通に仲良くしたいものだが、今の所どんなに容姿が好かろうと必要以上に関わり合いたいとは思えない。
「ではでは……ずばり二人との出会いはどこで?」
「あの、さっきから質問の内容が彼女達二人に関係するものばかりなのですが」
メモ帳に記入してきたのであろう事柄を読み上げながら、質問をしてくる先輩。
だが、その内容は最初のプロフィールについての質問以外、そのほとんどが里香や翔子の関連についての質問ばかりで。
流石に違和感、というより実際に聞きたい話。本命はこちらなのだろう。
凡そ想像はしていたが。
「え? うーん。ほら私達学生が好む話題と言えばやはり色恋話! 君の事を書こうと思ったらやっぱりこの手の話題に触れない訳にはいかないのよ!」
「……そういうもんですか?」
全く納得いかない。
完全に先輩の好みなんじゃないかこれ?
「ほらほら、言ってごらん」
急かす様に回答を促され、俺は渋々口を開く。
「……家が隣同士でしたので」
「ほう! 所謂幼馴染というやつね!」
いいねいいね! と一人盛り上がる先輩。
「じゃー今も朝は家の外で三人待ち合わせて登校してきてるんだね?」
「まぁ……そんな所です」
「カーッ! 青春だね!」
やばい。先輩のテンションについていけない。
先ほどまでの退屈そうな表情から一転。ノリノリでペンを奔らせ「それでそれで!?」と促してくる彼女に。
「いや、それでも何も。それだけですが」
「えー。ほら元カノですとか、今カノですとか!」
「だから友達ですって!」
絶対に色恋沙汰に繋げようとしてるじゃん!
ブーブーと騒ぐ先輩に、俺は呆れ混じりの溜息を付き。
「ほら、もうお昼も終わっちゃいますし、今日はこれくらいにしましょうよ」
「うーん。確かにね」
先輩は一度言葉を区切ると。
「じゃー今日の所は次で最後の質問にするよ」
一呼吸空けて。
「君達三人。この辺が地元じゃないよね? 本当の所、どんな生活してるの?」
悪戯に成功した幼子の様に、満面の笑みを浮かべた園原先輩が、俺を見つめており。
「またハッタリですか? 残念ながら元からこの辺に――」
「この辺りの中学校って、少なからずこの学校に入学してくる生徒がいるんだよね。でも一年生で誰も君達の事知らないみたいだし。それに、いつも徒歩で登校してきてるよね? その割に駅の方に向かう素振りもない。ってか駅で見かけた生徒もいないみたいなんだよね?」
どうゆう事なんだろうね?
そう小首を傾げる先輩に。
俺は無言でその場を立ち去るしかなかった。
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