慣れてきた生活と変わりゆく環境
そうして平日はやってくる
結局何処にも遊びに行く事なく、休日は過ぎ去ってしまった。
別段遊びに行きたい所があった訳ではなかったが、田舎から出て初めてゆっくりできる休みだったので、ある程度充実させたかったというのが正直な所。
半日以上寝ていたり、部屋の掃除をしたりと、ある意味休日らしい過ごし方をしたと言えなくもないが、望むべき過ごし方では無かった為、やはりいまいちだったと言わざるを得ない。
「おーい。二人ともそろそろ学校行くぞー」
制服に着替え、自分のスクールバックを手に取ると、俺は廊下の先。
リビングさらに奥。洗面所から今だ出てこない我が家の女子二人に声をかける。
彼是二十分以上籠りっきりの二人。
いくら女子の準備は時間がかかるとはいえ、普段はこれ程時間をかける事が無いため、聊か心配にはなる。
最も寝起きの二人の様子を見ている為、体調が悪いとか、そういった事では無いのが分かってはいるのだが。
「ま、待ってよ! 寝癖が全然直らないの!」
「いやー。見事なクセがついちゃったね~。涎垂らして寝てたんじゃない?」
「そんな訳ないでしょ! ……ないよね?」
聞こえて来るのは焦る里香の声と、茶化す翔子の笑い声。
うーん。やっぱり下らない事だった。
いや、年頃の女の子からしたら一大事なのかもしれないが。
少なくともオシャレも気にしない上に、男の俺にとっては、逆立ちしても共感出来はしないだろ。
今だって頭の上、触角の様に跳ねてしまった髪の毛を、特に直す事無く、学校に行こうとしているのだから。
「里香。あまり時間無いから、ある程度諦めてくれ」
「無理! こんな取っ散らかった髪型で学校なんて行けない!」
悲痛な声が家の中に木霊する。
朝から近所迷惑なんだが……。
だが、それほどの惨事になってしまっているのなら、いくらか同情の余地もある。
これは三人して揃って遅刻コースになってしまうかな。
などと考えていると。
「しょうがない、本気出すか。亮君ごめんだけど、後五分程待っててね」
先ほどまで半笑いで声を上げていた翔子の幾らか真剣な声が俺の元に投げかけられて。
「お、おう」
そうして、きっちり五分後には、優等生然とした姿の里香と、少し疲れた様子の翔子が準備万端で玄関へと集まってきて。
俺達は無事、予定内の範囲で家を出る事ができた。
ついでに翔子の手により、俺の寝癖も直して頂きました……。
真新しい制服も、一週間着れば左程違和感も感じなくなってきており。
最初こそ首回りに擦れる襟元が気に食わなかったが、今ではそれもある程度我慢が出来るようになっていた。
ブレザータイプの制服。ネクタイは実際に巻かなくてもいいボタンタイプの簡易な物で。
紺色というよりはもはや黒色といった方が近いかもしれない色合いは、男女統一されており。
並んで歩いている俺達を、周りの人達はどのように思っているのだろうか。
腕にくっ付く里香と、手を握る翔子。
両腕を、同い年の女子。しかも見目麗しい二人に取られ歩く男子。
女子のスカートは男子のズボンと比べデザイン性が有り、まるでアニメや漫画に出てきそうな見栄えをしており、そんな制服を纏う二人は、幼馴染の俺からしても、ぶっちゃけ可愛すぎて困る。
そんな二人だからか。周りを歩く人々も、老若男女関わらず人目を惹いているのが分かり。
だからこそ、ふと思う。
そんな二人とこんな距離感で歩く俺を、皆はどう思っているのだろうか、と。
既に一緒に登校している所を学校の生徒に見られている為、今更周りの目を気にしても意味もないのだが。
男性は元より、女性までもがこちらに視線を向けてくるのだから、気にならない訳もなく。
そうなると、同じ学校に通う学生からすれば、俺達は街中以上に注目されるのは当たり前のことで。
ならは、俺はどんな立ち回りが求められるのか。
里香と翔子をどうしてあげた方がいいのか。
答えが出ないまま、今日もまた、いつの間にか着いてしまった、学校の門を潜る。
先週に続き、生徒の視線が集まる中。
俺はせめてもの悪あがきに、少しでも胸を張って。
足りないスペックを虚勢で補おうと、足掻くのだった。
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