相談

「――――って事があったんだが」

「「ふーん」」

「あれ? 関心低くない?」


 テーブルの中央。

 カラッと揚がった唐揚げがこんもりと大皿の上で山を作り出しており、俺はその山の頂上付近にある一つを箸で摘まむと、白米の盛られた茶碗の上に置く。

 つい先ほどまで油の中で踊っていた為、箸を持つ手に熱気が触れる。この熱々ですぐに口の中に入れるのは自殺行為だろう。

 そんな唐揚げを囲むのは、本日の夕食を用意した翔子に、お手伝い担当の里香。今日は食べるだけ担当の俺の三人。

 各員が思い思いに箸を伸ばす。

 

「関心が低いっていうか、それの何が問題なの?」

 咥え箸をしながら、不思議そうにしている里香に。

「亮君は私達が一緒に住んでるのを公にしたくないんでしょ?」

 翔子が俺の気持ちを代弁してくれ。

「そうゆうこと」

 俺は冷めてきたであろう唐揚げを頬張る。


「ふーん。じゃーやばいじゃん」

「そう。やばいの」

「……いや二人とも、本当にそう思ってます?」

 俺が唐揚げを咀嚼している間。二人のやり取りはのんびりとしたもので。

 その言葉とは裏腹に何も気にしていなさそうな声色と表情。

 まるで『私達にはあまり関係ないのだけど』と言いたげで。


 里香の様子は多分、本当に気にしていないのだろう。それは長年の経験でわかるのだが……。

 普通優等生を演じようとするのであれば、同級生の異性と同居しているって情報が漏洩するのは受け入れがたいものだと思うのだが、その危機意識の無さはそれでいいのであろうか? 

 ……まぁ普通は良くないのだろう。だが彼女からすれば、最悪自分自身で何とか出来るという自信もあるのだろうし、そういった危険予知は俺や翔子の分野と考えている節もある。

 対する翔子は、非常識里香な彼女と比べたら、どちらかと言えば俺よりの常識を備えているはずで。

 ならば何故、そうも能天気そうに出来るのだろうか?

 そんな疑問は、唐揚げを摘み口に含み、美味しそうに食べ、ごくんと飲み込んだ後。

 翔子自身が教えてくれた。


「普通に同じマンションにそれぞれ一人暮らししている事にすれば良いんじゃないかな?」

 あぁ。確かに。

「ほんとだ。それで解決! ――するか?」

「まぁ暫くは煩いかもだけど、幸いこのマンションはオートロックだし、玄関開ける所まで見られる事はないでしょ」

 後はどこかでボロを出さなければね。

 そう続けざまに言うと、翔子はまた唐揚げを箸で取り、その小さな口にパクリと入れる。


「口裏を合わせれば良いのよね? 任せて!」

「そうだな……まぁ後は俺が上手く先輩に伝えれば問題ないか」

 俺がうんうん、と相槌を打っていると。

 里香が可笑しそうに笑い出し。

「その質問された後、無言で逃げちゃったんでしょ? まずはその言い訳からだよね」

 うぐっ。それは頭の痛い所ではある、が。

 もうどんな言い訳をしても無理が出そうだし、適当に誤魔化せばいいだろう。と開き直っている自分もいるので、もう気にしないことにした。


 俺の曇った表情が面白かったのか、益々可笑しそうに笑う里香。だがその笑い声の数秒後には、溜息を付いて。

「はぁ。でもこれで亮平が人気者になったらどうしよう」

「なんだ? 俺が人気者になったら困るのか?」

 そうなる可能性は限りなくゼロに近いがな。

 せめてもう少し顔が好く、勉強が出来て、運動神経が良ければ……ってもはやそれは俺じゃない誰かになっていそうだが。

「だって~。そしたら一緒に居られる時間減りそうだもん。みんなで亮平のスケジュールの取り合いになる!」

 そんな在りもしない未来を想像し、顔を歪める里香に、翔子が微笑まし気に。

「もしそうなったら、同じ家に住む私達は夜には一緒に居られるのだから、日中は我慢しないとかな?」

「えー! 学校でも一緒に居たい!」

「あまり亮君にくっ付いてたら、嫌われちゃうよ?」

「なんですと!? 亮平嫌いになる?」

 首がねじ切れそうな勢いで俺の方に視線を移す、里香に俺は。

「早く俺離れしてくれ」

「うぇーん! 亮平が虐めてくる!」


 意地悪したくなる里香が悪い。うん。

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