クラスにて

「で、最近どうなのよ? 件の美少女二人とは?」


 弁当生活を始めて、丁度一週間が経った朝の教室。

 授業開始前の短い休み時間中。

 俺の不意を衝く様に声をかけてきたのは、隣の席に座るイケメン顔。

 木戸きどしゅんはニヤニヤとした笑みを浮かべて、俺の顔を見やり質問を投げかけてくる。


「……なんの事だ?」 

「亮平君……思い切り視線が泳いでいるよ……」

 そんな俺と木戸の会話をどこからか聞いていたのか、我がクラスで一番の美少女。じゃなかった美少年――相馬そうまかえでが苦笑い気味に視線を逸らした先。前方の出入口から入室してきて。


「先週からお前さんが食堂で見かけないなぁと思っていたら、何やら例の二人と弁当片手にどこかに行ってると噂を耳にしましてね」

「……それはウチのクラスで噂になっているって事か?」

「んや、この学年で」

「……まさかの学年単位って……この学校は他に面白い話題がないのか」

 俺が頭を抱え溜息を付くと。

「いや、亮平君達が良くも悪くも目立つからだと思うよ」

 俺の肩をトントンと叩きながら、楓が呆れたように諭してきて。


「そんなに俺達って目立ってるのか?」

 思わず二人の顔色を伺いながら、確認をすると。

「目立ってるなぁ」

「目立ってるね」

 きょとんとした顔をして、二人は視線を合わせたのち、ほぼ同時に同じような返答が返ってきた。


「そもそもが、入学して間もない時期に美少女を両手に侍らせ登校して来たり」

「人の多い昼時の食堂でイチャイチャしながらご飯を食べてたって話もあったし」

「自分達から目立つ行動してるからなぁ」

「話題にするなって方が無理だと思うよ」

 口々に追い打ちをかけてくる我がクラスメイト二人の言葉に。


「な、なるほどね」

 言われてみれば納得というか……傍から見たら、そりゃ俺達くらいの年頃なら話題にするなというのも無理な話だと思われる。

 ってか食堂でイチャイチャした覚えはないが。


「で、話を戻すが。最近……えぇと。大野さんと宮さんだっけ? どんな感じなんです? やっぱ付き合ってるの?」

「付き合ってないよ。ってか何で二人の名前知ってるんだ?」

「そりゃ、話題の人だからな。同じ学年だし、名前くらい嫌でも耳まで届くわ」

「多分この学年で知らない人はいないんじゃないかな? 下手したら学校中で、かもしれないけど」

「マジで、そんなレベルで噂になってるのね。俺達は……」


 これが自分事でなければ俺も多少は楽しめた話題なのかもしれないが、その話のタネが俺や里香達となれば、気軽に笑い事にも出来ない。っていうか単純に恥ずかしいし。


「まぁでも、付き合ってないってのはあまり言わない方がいいかもな。お前さんの存在が、多くの男子達への抑止力になってるみたいだし」

「抑止力? なんだそれ?」

 聞きなれない言葉に、俺が思わずオウム返しに聞き返すと。

「単純な話。あんな美少女を多感な青少年の男子共が黙って見ている。なんて事もなく、一定層は彼女に出来ないか狙っていたみたいだぞ。ただそれも、イケメン顔で既に二人とやんごとなき関係性を築いている男子がいる。ってなれば、手を引く奴も多いって話だ」

「実際数名は既に玉砕したって話も聞くけど、その人数もそんなに多くはないみたい。亮平君がいなかったら玉砕した人数は今の何倍にもなってたかもね」

 木戸と楓からの情報は、普段の里香と翔子を見ている俺からすると、何とも言えない気持ちになるが、傍から見れば間違えなく美少女の二人。それほどの人気になるのもおかしく……ない、のだろうか。流石に大げさな気もしなくもないが。

 モヤモヤとした釈然としない気分でいると。


「あ、ちなみに亮平君にモーションかける女子が少ないのも同じ理由みたいだね。(最もこっちはわざとそうなるように仕組んでる気もするけど)」

 

 始業のチャイムにかき消され楓の後半の言葉は掻き消えてしまったが……なんか今とんでもない事言ってなかった!?


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