消えた土曜日
「あのぅ……俺の目が確かなら、もしかして今は夜六時ですか?」
「そうね。私の目にも時計の短針は六時を指している様に見えるわ」
ふーん。
「キッチンで調理をしている翔子さんや」
「なーに? 今包丁持ってるから手が離せないんだけど~」
「いや、確認なんだけど。今作っているのは夕食で?」
「あたりまえでしょー」
なるほどなるほど。
ふむ。改めて状況を整理しよう。窓から見える景色は随分と暗くなっていて、殆ど外の様子が見えない有様。
壁にかけている時計は今六時を少し過ぎた辺りを指示しており。
ついでに翔子は夜ご飯の調理中。
「あれ!? なんか時間が飛んでいる!?」
「いや、亮平が寝てただけだから」
「寝ていた……だと……」
そんな訳がない! 俺の記憶では朝に里香と翔子が布団に潜り込んでいて、寝苦しくて起きたばっかだぞ!
「バカな!? そんな訳が……」
「いや、普通に朝ごはん食べた後、『やっぱ眠いわ』って言って私の膝を枕にして二度寝してたじゃない」
うーん……?
「あぁ。思い出したわ」
そういえばそんな記憶が微かに残っている気がする。
なるほど。そこからずっと寝続けてもうこんな時間、と。
「凄いな。なんか八時間くらい寝てないか?」
「ほんと、死んでるんじゃないかって心配したわよ……」
呆れ顔で三白眼を向けてくる里香。そりゃそんな表情にもなるわ。
「しかもそのうち半分以上、私の膝の上よ!?」
「ほーん。なんか悪かったな」
「何その反応!? すっごい足痺れたんだからね!」
自らの素足を指さしながら、痺れた感覚を思い出してしまったのか涙目になりながら訴えかけてくる里香。
いつの間にやら寝巻から着替えていたのか、今は少しサイズの大きいダボっとしたTシャツに半ズボンといった装いで。
素肌の顕になったふくらはぎや足先は妙に艶めかしく。
「すまんかった。だからもう一回頼むわ」
「死ねばか!!」
謝りながら、彼女の足に向かって体を倒すと、透かさず頭を叩かれる。
「何とか起きるまで我慢してあげようと頑張ったのよ! でもさすがに数時間もしてたら足の感覚なくなるわ!」
起こさない様にそっと移動させるのも大変だったんだからね!
そう吠える里香に、ペコペコと平謝りをしながらも、我ながら信じられずに何度も時計を確認してしまう。
その度に、時計君は無情にも正確な現在時刻を示しており。
……………すごい時間を無駄にした気がする。
折角の土日を有意義に過ごそうと息巻いていたのに、まさかの土曜日、後六時間ほどで終了のお知らせ。
――巻き戻せるのなら今日の朝からやり直したい。
そんな気持ちを胸に、俺は隣に座る里香の足裏を、ちょんと触れ。
「ひゃッ!?」
「あぁすまん。まだ痺れてるのか気になって」
「もう治ってるわよ! アンタいい加減にしなさいよ!?」
いまいち働きの悪い頭では、この時間消失による虚無感を埋める策など思いつくはずもなく。
取りあえず近場にいた
「ちょっと翔子! 亮平を何とかして! かまちょがウザい!」
「うーん。面倒くさいから自分で何とかして」
「え? ひどくない?」
そんな他愛も無い時間を過ごしながらも、本当に土曜日が終わろうとしていた。
どうでもいいけど、この後ちゃんと寝れるかな?
……たぶん寝れないな。
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