二日目


 翌日。

 里香からの恨めしげな視線を浴びながらも、何とか今日も『他人の振り』作戦を継続させた。

 流石に登校まで一緒にしだすと、校門付近でバレてしまうのが確定するので、取り敢えず二人に先に家を出てもらう。


 その際、翔子には「里香を頼む」と小声で一言伝えると、頬を膨らませ怒ってますアピールをされたが、最後には「りょーかい」との事。


 その内翔子の機嫌も取っておかないとな……アイツが爆発したら大惨事だ。


 二人を見送ってから、俺は昨日と同じく少し時間を開けて、家を出る。

 やはりというか、マンション近隣には同じ高校の生徒は居ないのか、制服を着た生徒を見かけたのは、随分と学校が近くなってから。

 道中二人に追いつくこともなく、無事に学校に辿り着き、俺は教室入って直ぐの自分の席に腰を下す。

 既に多くの生徒が登校を終えていたようで、クラスメイト……かはまだ覚えていない為分からないが、教室は賑わっていた。


「おーす。おはよう飯島」


 男子数名で構成されていた集団から見知った顔が、気怠げな態度で歩み寄って来る。


「おはよう木戸……良かったのか? 彼らとは」

 自らの椅子を手に取ると、俺の方へ向きを変え座る彼に、顎で先程までいたグループを指しながら聞く。


「あ、あぁ。アイツら同中だからな。別段今更だよ」

「ふーん」

 

 木戸は近隣の中学卒だと聞いていたが、やはり近場の高校を選ぶ人も多いのだろう。

 友達の友達繋がりで仲良くなれるといいな、と彼らに視線を向けていると、偶然にもその内の一人がコチラに視線を向けて来た。

 女の子の様な顔立ちをした生徒だ。髪もそこそこ長く、男子の制服を着ていなかったら、一瞬判断に迷っただろうレベル。

 木戸はニコニコしながら手を振っていた為、俺も真似して手を振っておいた。

 そんな俺達に対して、ちょっと照れた様に小さく手を振り返す彼を見て、不覚にも可愛いと思ってしまったのは、内緒だ。


 二日目にして始まった授業は、殆どが中学レベルの復習問題からだった。

 別に勉強が特別出来るわけでは無いが、一人暮らしを勝ち取る為にそれなりに勉強をしていたおかげか、現状の授業は簡単に思えた。

 中には先生からの質問に対し、答えに窮した生徒も居たが、それも少数で全体的に授業はスムーズに進行していった。


 午前の授業が終わると、隣で伸びをしながら木戸が声をかけてくる。

「おーい。昼いこーぜ」

 との誘いを有り難く受けて、俺達は一階にある食堂へ向かった。

 事前に先生の案内では、食堂を利用する生徒の割合が大体七割程度と聞いていたが、着いてみると生徒の数が凄まじく、すれ違うのもやっとな程。

 

 食券を買いカウンターで引き渡し、品物を貰う。

 言うのは簡単だが、実際は結構サバイバルだ。

 食券を我先にと買いに走り、カウンター前には長蛇の列。

 品物を貰った後も周りの人とぶつかりそうになりながら、席へと向かう。

 

 そんな現場を体験し。

「明日から弁当にしようかな……」

 俺が疲れ切った声で言うと、木戸が楽しそうに。

「なんだよ〜。このどんちゃん騒ぎが楽しいのに」と。

 彼は何を言ってるんだ?


 そんな騒ぎはお昼も中盤に差し掛かると、次第と落ち着きを取り戻し、それなりに心地の良い空間となる。

 最も人はまだ多いのだが。


 そんな中で。

「おい、あの子達ちょー可愛くない?」

「ほんとだ。レベル高いなぁ」

 と男達の声。


 彼らが熱い視線を向ける方は目を向けると。

「あぁ。なるほどね」

 そこには里香と翔子が並んで楽しそうに食事を取っている姿。

 確かに里香の事を頼んだからね。そうなるよね。

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