部活動
里香と翔子。二人の存在に気付いてしまうと、俺としても気になって仕方なくなる。
ふと、周りを見渡せば、先ほど里香達を褒めていた男子生徒以外にも、近辺の男子生徒の多くが二人の存在を意識してるのがわかった。
ジッと見つめる人も居れば、チラチラと様子を伺う者まで。
二人の周りには、他にも幾人かの女子生徒も見受けられたが、その中でも里香も翔子もダントツで……可愛いな。
里香が上品に箸を口元に運ぶ横で、翔子が楽しそうに里香にちょっかいをかけ、場を盛り上げる。
そんな翔子に里香は、時には嗜め、時には一緒に笑い。
たまに他の生徒にも話を振りながら、立ち回る。
普段の里香からはあまり想像出来ないが、外での……というよりは身内以外からの視線がある時は、彼女は大人しくなる。正確にはキャラを作る、といった所か。
甚だ不本意ではあるが、俺達三人の中では里香が一番、基本スペックが高い。勉強もスポーツも。その為周りから求められているキャラクター性というのがあるらしく、昔から優等生を演じようとしてしまう。
以前は俺や翔子も『無理しない方がいい』と言った事もあったが、今は好きにさせている。
最も、里香の負担になりそうなら、今度は無理やり辞めさせるかもしれないが。
「んー? どしたの飯島。さっきから同じ方見て」
不意に掛けられた声に、俺は慌てて視線を目の前に座っている木戸へと向けた。
彼の位置からは、背後を振り向かない限り里香達のグループは見えない。
別に誤魔化す必要も無かったが、ここで里香や翔子の事を適当に茶濁ししておくと、後々二人と幼馴染だとバレた時にややこしくなるからな。
話題に上がらないならそれに越した事はない。
「いや、何でもないよ。食べ終わったし教室戻ろうぜ」
俺はやや強引に、その場を去る為に立ち上がり、出口に向かう。
チラリと翔子と視線が合うと、他の人にバレないようにウィンクを投げて来たので、心の中で打ち返しておいた。
午後からはロングホームルームとの事で、俺達一年生、全生徒は体育館に集まる。
何でも部活動の紹介とかで、各部活が出し物をしつつアピールをするとの事。
サッカー部がリフティングをしながらパスを回していたり、野球部がピッチングを披露してその速球で賑わせたり。
各々がその特色を出しつつ、面白おかしく紹介をしていく。
この学校では部活動推奨との事で、基本生徒は何かしらに入部する決まりになっていた。
最も。
「俺、親元離れてるから部活入る気ないんだよなぁ」
「そっか。一人暮らしは免除だっけ?」
とは、隣に座る木戸からの問い。
「う、うん。そう」
厳密には一人じゃ無いが、まぁ同じだろう。
確認は取れていないが。
全ての紹介が終わる頃には、見ているだけだった筈の俺達一年生も大分くたびれてしまい、やっと終わったか、という気持ちからか、一斉にざわつき始めた。
順次教室へ戻る様指示が入り、適度に体を伸ばしながら、俺達は教室へ向かった。
「木戸は何に入るんだ?」
「うーん。まだ決めてないんだよねぇ」
教室に戻る傍、彼は少し難しい顔をしながら頭を悩ませていた。
「中学時代は何かやってなかったのか?」
「サッカー部」
「じゃーサッカー部は?」
そう聞くと木戸は唸る。
「うーん。飽きたよね」
「さよか」
二日目にして彼の人となりが何となく分かった気がした。
部活動自体に興味が無い為、適当に会話をしていると。
「え……瞬くん。サッカー部入らないの?」
その声の主は、可愛らしい顔をした件の男子生徒だった。
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