可愛いあの子は……(男の子)
「ごめんね! 会話に割り込んじゃって!」
件の彼が手をパタパタ振りながら、俺達に詫びを入れてくる。
全然気がついていなかったが、どうやら彼は俺達の後ろを歩いていた様で、思わずといった感じに声を上げてしまったのだろう。
振り向いて目が合うと、こんな調子である。
慌てた様子の彼に、俺はどう対応して良いか分からず、隣にいる木戸を横目で見る。
「あれま。楓に聞かれちゃったかー」
楓。そう呼ばれた彼は、戸惑いながらも頷き、ジッと木戸を見つめている。
「瞬君。あんなサッカー上手だったのに、なんで?」
真剣な彼の眼差し。
これは、よく分からないけど何か修羅場な空気?
邪魔しちゃ悪いし……正直、面倒くさそうなのでそっとその場を離れようとして。
「えっと。飯島くん……だよね? 同じクラスの
いつの間にか視線が俺の方を向いており、俺に向かって手を伸ばしていた。
「あー……飯島亮平だ。よろしく」
流石に逃げる訳にも行かず、俺は手を握り返す。
「亮平君だね! あ、名前で呼んでも?」
「お、おう。好きに呼んでくれ」
「じゃー亮平君で! ぼくの事も名前で呼んでくれていいからね」
「わ、わかった……楓」
凄いな。この距離の詰めかた。
いきなり名前呼びには戸惑ってしまったが、そんな悪い気はしない。何か良い子な気がするし。
何となくの雰囲気だけど。
「うんうん。仲がいいのは良い事だ」
木戸の相槌に、楓は少しムッとした様子。
「ごまかさないで。で、なんでなの?」
「いやー。飽きちゃって」
「ほんとに? あんなに楽しそうにしてたのに」
「ほんとほんと」
木戸が指先でちょいちょいと、教室の方を指差す。
楓の登場で、思わず立ち止まってしまっていた俺達は、その仕草に促され、歩みを再開させた。
「何気に遠いよな。俺達の教室」
「まぁ一番奥だからな。二年や三年よりはマシだろ」
学校の構造上、体育館や食堂は一階の一組側に作られており、俺達六組生は結果、他一年クラスの前を通り過ぎながら奥へと向かうようになっていた。
ちなみに一階の六組側には職員室がある。教室で騒ごうものなら、直ぐに先生方が飛んでくるのだろう。
「まぁ不便そうなのは否定できないよね」
とは、楓の見解。まだ部活の件で、納得はいっていないのだろうが、取り敢えずは保留にしたようだ。
実際この六組の距離はネックだと思う。
まだ通い始めて二日目だからなんとも言えないが、ほぼ確実に不便なのは間違い無いだろう。
グダグダと文句を言いながらも教室にたどり着く。
楓の席は中央の方に有るらしく、中に入ると一度は俺達から離れて席に着こうとした。
が、他の生徒もまだ教室内で思い思いに過ごしているのを見て、照れ臭そうにしながらもまた俺達の方へと戻ってくる。
「なんか、まだ良いみたいだしお話しよ」
楓。マジ可愛い。
「なんだ? 寂しくなっちゃったか?」
「瞬くん! からかわないで!」
「頭ナデナデしてやろうか?」
「やーめーろー!」
なんだコイツら。イチャイチャしやがって。
まぁ男同士なんだけどね。
「そういえば、お前達が朝一緒にいた時、他の生徒もいたよな? 彼らは?」
「や、やめてって! うん? あぁ皆んなは他のクラスだよ! 瞬くんが同じクラスって知らなかったらしくて、ぼくが、心配で様子見に来てくれたんだ」
僕だけ子供扱いでムカつくよ! と続けて楓が言うと、木戸が彼のほっぺをムニムニしながら。
「こーら。アイツらはお前を心配してくれてるんだから、そんな事言わないの〜」
「わ、わきゃってりゅ〜。 てをはにゃちぇ〜」
俺は何を見させられているのだろう。
けど、取り敢えず……ボッチに成らずに済みそうで、ホッと胸を撫で下ろした。
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