川の字

 浴室の方から、里香と翔子の楽しそうな声が聞こえてくる。

 三人でご飯を食べる中、俺はそそくさとご飯を済ませて、寝床の準備に取り掛かった。


 途中、里香が食事を終え、席を立った際「お風呂は?」と催促され「一人じゃ寂しいなら翔子と入ってろ」と言ったところ、本当に翔子を連れ二人で入り始めたのだ。

 あいつら仲が良いな。


 さて、今回はまだ部屋をどの様に振り分けるかちゃんと決めていなかった為、今日はリビングに布団を敷き、後日改めて今後の事を決めようと考え。

 ふと、簡単に整理していた布団を運びながら、食事の際話していた事を思い出す。


『今日私の寝る布団ないんだよね……』

 その翔子の言葉を、里香からの風呂攻撃から逃げるのに必死になって余り深く考えていなかったが。

 

 一難去ってまた一難。

 二組しかない布団を眺め、俺は溜息をつく。

 俺と里香は元々敷布団派だった為、今回自分達の布団をそれぞれ持ってきていたが、翔子は実家でベッドを使っていた。今回の引越しでは荷物を減らす為、持ってくるのを断念。代わりに敷き布団を新たに通販で購入。

 それがまだ届いていないのだ。

 

 結果三人に対して、布団が二つ。

 幸いなのは俺のも里香のもセミダブルサイズの布団な為、多少のゆとりがある事。


 いや、一緒に寝る約束はしたけどさ……

 同じ布団と、各自違う布団で並んで寝るのとでは、難易度違いませんか?


 一時は俺がクッションを敷いて寝ようかとも考えたが、さほど数もそれぞれの厚みもない為、普通に体が痛そうだった。

 流石に新生活そうそう、バキバキになった体で生活するのは御免蒙る。

 ってなわけで渋々二組ある布団を横にピッタリと並べて、三人川の字で寝れるか試してみようと思ったのだが。

 

 あぁ。これ寝れちゃうわ。

 寝れなければ諦めて、別の選択肢を考えようかとも思ったが、出来ちゃうわ。


 布団の中心で、文字通り大の字で寝転がっていると。


「あ、これなら三人で寝れるね!」

「亮君が中央で左右に私と里香だね」


 お風呂から上がった二人が、風呂場から出てくる。


 湯上りで蒸気した肌。

 里香は長い髪を特に縛ったりせずに、肩にかけたバスタオルで小まめに髪を拭きながら。

 翔子は髪をタオルと一緒に巻いて、服を濡らさない様にしながらーー


 動物パジャマを着た姿で現れた。

 里香は茶色い犬。翔子は白い猫のカラーと見た目をしたパジャマ。

 

 二人はどちらも発育が良く、ダボっとしたデザインのパジャマでも、双丘がはっきりと主張をしている。

 こいつらこの間まで中学生でしたよね?

 俺と同い年ですよね?

 何か、妙に色っぽい。


 風呂上りの二人の姿を見るのは、小学6年のお泊まり会以来か……


 普段とは違う雰囲気に、妙にどぎまぎしてしまう。

 

「あれー? 亮平、私達の事見過ぎじゃない?」

「亮君……恥ずかしいから余り見つめないでね……」


 二人から指摘を受け。俺は急いで顔を背けた。

「す、すまん! 新鮮だったもんでつい!」


 里香は楽しそうに、翔子は少し照れたように、俺の元へとやってくる。


 二人の姿を見て、寝転がる態勢から上半身を起こし座っていた、俺の隣に。


 それぞれそこが自分のポジションと言わんばかりに、里香が右側。翔子が左側。

 

 両サイドから香るシャンプーの匂い。

 お風呂で温まったから、余計に二人の体温が、感じられ。

 俺は我慢できずーー


「お、お風呂入ってくる!」


 風呂へと避難した。

 背後から、クスクスと笑う声を耳にしながら。

 俺、この生活で諸々我慢できるかな……


 あ、勿論お風呂場で変な事はしてないですよ?

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