お弁当①
翌朝。
いつもより少し早起きした俺と翔子は、予定通りに弁当の準備を始めた。
昨晩作った料理をばらんや小分けカップを使い見た目良く詰め込み、予め入れておいたサラダと喧嘩をしないように、気を配る。
青椒肉絲に唐揚げ、卵焼きにひじきの和え物。サラダはレタスとメインにプチトマトと青椒肉絲を作るときに余ったピーマンやパプリカを細かく刻み。
そうして出来上がった弁当は、俺一人では決してこうはならないであろう、色合いや栄養価等バランスの取れた品揃えとなった。
「流石は私だね~。我ながら上出来♪」
「あぁ。俺じゃこんなに手の込んだ弁当は作れないわ」
「ふふっん。最初だから頑張ってみました! 取り合えず今週分はこのレベルを維持できるけど、来週からはグレード落とさせてね」
少し申し訳なさそうに締めくくった翔子の言葉に俺は「わかった」と頷く。
今回この弁当を作るに辺り、メニューから配置まで拘ったのは、自慢げに胸を張っている翔子で。
俺は簡単な手伝いをしただけに過ぎない。
だからこそ、この出来栄えは素直に感嘆する。
それと共に俺の胃袋は、素直にこの弁当に対する五感的刺激を諸に受け。
「……こんなの見てたら凄い腹減ってきちゃったんだけど、朝ご飯に食べていいですか?」
「いいわけないでしょー。ほら朝ご飯はこのおにぎりです」
出されたおにぎりは、昨日炊いたお米で握った海苔すら巻かれていない簡素な塩握り。
「あのー。おかずは?」
「お塩で我慢してね」
「……それマジで言ってます?」
その声色は、自分の声ながら絶望に染まった色をしており。
「流石に冗談。ちゃんと卵焼きを多めに作ってあるから、それで食べちゃって」
「おー! ありがとう!」
同情してか……は分からないけれど、翔子から手渡されたお皿には、弁当に入っていた物の切れ端と思わしき卵焼きが乗っており。
黄金色に焼かれた卵焼きは、砂糖の入った甘口。
ウチの母親が作っていた味に似ていて、見た目は兎も角とても甘く美味しかった。
え? 里香さんはどうしたかって?
――あの子が起きれる訳ないじゃないですか。
いつも通りの時間に俺達は家を出て、学校へと向かう。
相も変わらず里香は俺の腕に抱きつく様に歩き、その逆手を翔子は取り、数歩後ろを歩く。
横を歩いている里香は、ここ数日で怪我をした足も大分良くなってきたようで、一時期は明らかに庇うように歩く姿が目立っていたが、今では傍から見ている分には普通に歩けている様に見えており。
「里香。お前そんなにくっ付いて歩く必要あるか?」
「イテテ……足が痛いな~」
「本当に? その割には随分と軽快に歩いている様に見え――」
「いたたー! これはまだまだ重症だ!」
だからこそ、もう俺の介護――腕を抱いて歩く必要など要らないのではないか。そう投げかけようとしたのだが、その言葉は、大げさに足を庇うように歩く里香の行為によって中断させられ。
「はぁ。お前そんなんで優等生キャラやっていけるのか?」
つい忘れがちになってしまうが、これでも里香は中学時代、外では見栄を張って、俗にいう優等生キャラをやっていた。
「大丈夫! これは介護してもらってるだけだし! 他の人にはクールな対応をしてるから!」
「いや、そういう問題じゃないような……」
自信満々に言い切る里香の隙を見て。
そっと後ろで静かに俺の制服の袖をちょこんと摘まんで歩く翔子に目配せをする。
すると返ってきたのは、諦めきった顔で首を横に振るう仕草で。
もう既に周りからの評価は手遅れなのだと理解した。
まぁ無理に格好をつける必要も無い訳で、むしろ中学時代によくそれっぽく振舞う事が出来たものだと、過去の里香を褒めたいくらい……ではあるのだが。
明らかに幼児退行してしまった様子の里香が、気がかりで仕方がない。
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