嵐の様に
教室に突入してくるなり、彼女は誰かを探す様に、キョロキョロと辺りを見渡す。
先程までの騒めきが嘘の様に、シーンと静まり返る中。
彼女が入室してきたドアは俺の席が最も近い為、矢面に立たされない為に、咄嗟に腕を枕にして机に覆いかぶさる様にし、狸寝入りをする。
これ以上目立つのは御免だ。それに俺の顔はイケてない筈なので、別人という説もあるし。
いや、美女二人を侍らせてって辺りから、間違い無く俺の事を探しているのだとは思うのだが……
暫しの時が過ぎ、教室が遽に騒めき始めると、一通り教室内を見たのだろうか。彼女はスタスタと足音を立てながら動く気配。
と、言っても数歩分の音しか聞こえてはこなかったが。その音は確かに俺の前で止み、代わりに聞こえてくるのは、荒い鼻息。
「貴方ね! 噂のイケメン君は!」
数瞬の間が場を支配する。
「え? 俺?」
彼女の声は俺達の方へと向かってきていた。
しかしその声を拾ったのは、いまだ隣に居るであろう木戸。
「そう貴方! 今見た限りこのクラスで一番カッコいいもん!」
そんな彼女の台詞に、何か言いたそうに「あ〜」と呻く木戸と、思わずと言った感じで吹き出し笑いをしている楓の声。
俺は心の中で祈る。
頼む木戸。上手いこと誤魔化してくれ、と。
「えーと。その噂の人は俺じゃ無いんだけど、それ以前に……どちら様で?」
おそらくこの問いは、クラス全員が思っていた事だろう。
クラス代表となった木戸の質問に、彼女は「おっとこいつは失敬失敬!」と、どこの人だと言わんばかりの前置きをして。
「私は新聞部二年、
まさかの先輩だったー!
思わず驚きのあまり顔を上げると、そこには突入時にチラリと見た、少女ーー園原先輩がかがみ込む様に俺の方を見ていたらしく、視線が真っ直ぐに交わる。
「お、ここにもイケメンはっけーん! もしかして君の方だった?」
やばい! と思った時には既に、獲物を見つけた獣の如き目付きで、俺の顔を凝視しており。
「顔、覚えた」
「いや、こえーよ!」
「君でしょ? 噂の生徒」
その言葉には、先程木戸に問いかけた時とは違い、確信めいた口振りをしており。
「いや、違いますよ」
俺は出来るだけ真顔を作り、嘘をつく。
その返答を聞くと、ニヤリと園原先輩が口元を歪め、するりとその手にスマートフォンを握りしめ。
「実は写真があるんだよねぇ」
「じゃー最初の茶番は何だったんだよ!」
俺は隣に立つ木戸を指差しながら思わずツッコミを入れてしまった。
いやいや、もう言い逃れできないじゃん! 写真あったらどうしろと……
「まぁ嘘なんだけどね」
「嘘かい!」
やばいなんか園原先輩のペースにまんまとハマってしまっている気がする。
さっきから楓はもう隠そうともせずにお腹を抱えて笑ってるし。
木戸に至っては隣の席でちゃっかり授業の準備。お前そんな真面目な生徒じゃねーだろう!
またしても孤軍奮闘の気配を感じ、どうしたものかと灰色の脳細胞をフル活用しようとすると。
「おーい。ホームルーム始まるぞー」
先生という最強の援軍を得て、俺は勝利を収めた。
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