迎えに行くには……
さて、俺は今とても悩ましい状況に置かれている。
というのも、俺はあの後何とかクラスメイトに遅れながらも、ギリギリで体力測定を終え、俺達は着替えを済ませと、教室へと戻って来ていた。
なお、一番ネックだった長距離走については、そもそも一学年全体でやるのは無理との事で、各クラス体育の授業の時に計測するとの事。
その為、厳密にはすべての測定、というわけではないのだが……
取りあえず、今日の分はすべて終了との事で程よい疲れの中、残りの授業も無事に乗り切り、俺は放課後を迎えていた。
そう、放課後を迎えてしまったのだ。
風の噂で、あの後里香も保健室から自分のクラスに戻り、授業を受けたと聞いている。
つまるところ、きっと里香も教室で俺の事を待っているだろう。
もちろん、里香を迎えに行くのは確定だ。それは覆らないし覆す気もない。
だがしかし、俺が里香や、恐らく一緒に帰ると言うであろう翔子と、本当にそのまま一緒に帰宅したとなれば、まず間違いなく有らぬ誤解を招くことになるだろう。
本来であれば、やんわりと情報を周囲に公開していきながら、学校で二人と接触をしていこうと考えていたのだが。
いきなり俺が現れて、怪我をして困っている学年で一、二を争う美少女と一緒に帰ったとなれば……なんならその双璧の片割れでもある翔子とも一緒に帰る訳だし。
ぜっっったいに変な噂が流れるだろう。
ちなみに、まだ一週間と高校生活が経っていないにも関わらず、既に里香と翔子は有名になりつつあるようで、最初こそ俺個人が二人の事を贔屓目もあり、学年での人気度トップツーだと考えていたが、今ではそれがそのまま彼女達の評判となっているようだ。
曰く、美人姉妹(いつも一緒にいるから)とか、一学年のペアアイドルだとか、男子の中では言われている。
そんな二人と一緒に帰る……なんてハードルが高いんだ……。
出来る事なら穏便に済ませたい。二人に迷惑をかける事なく……。
頭を抱えながら考え込んでいると。
そんな風に頭を悩ませていたからだろうか。
隣から心配そうに俺を見る二人の視線。
木戸と楓が、揃って俺を見つめている。
「なんかあったか?」
「僕達で良ければ相談に乗るよ?」
視線に気づいて二人を見返せば、手を差し伸べるように優しい言葉を投げかけてきてくれる。
あぁ。この二人はいい奴だな……と、思いつつも、これで里香達と噂になった際、掌返しを喰らったらと思うと、ちょっと怖い。
木戸は兎も角、楓は大丈夫であると信じたいが、彼のまた男の子。
俺が二人と幼馴染、ましてや同居しているとバレた日には、嫉妬されるかなんなら俺達の事を軽蔑するかもしれない。
考えは右へ左へ。頭の中を往ったり来たりと巡り巡って。
――俺は考える事を、やめた。
出会って間もないが、木戸と楓を、信じてみようと思った。
「いや、実はさ……」
二人には、取りあえず同居の件は伏せながら、二人と幼馴染であるという事と、一緒に帰るのに、ハードルが高くて困っている旨を相談する。
「え? 普通に帰ればよくね?」
「何を躊躇しているのか全然分からないよ」
何を言ってるんだって顔をする木戸と、きょとんとした楓の顔。
なんだか一大決心して相談したのに……あれ? なんで二人してそんな顔になる?
「あの、お二人さん。ちゃんと聞いてました?」
「「聞いてた聞いてた」」
「ならわかるだろ? 最悪俺は兎も角、あの二人が奇怪な目で見られたりしたら、可哀想じゃないか」
せっかくの高校生活を、そんな恥と共に過ごすのは、誰だって嫌だろう、と。
考えている俺を、やはり二人は不思議そうに見ていて。
「いや、お前とその二人の詳細な関係性はわからないけどさ」
「少なくとも、亮平くんなら大丈夫じゃない?」
うんうんと頷く二人に、俺は何をもって大丈夫と言われているのか分からず、戸惑う。
「取りあえず行ってみたらいいんじゃないかな?」
「少なくとも、お前が考えているより、あの二人を評判を、お前が落とす事はないと思うぞ」
そんな、謎の励ましのような言葉を貰いながら、俺は二人に背中を押されるようにして、教室を後にした。
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