話し合い

「どーゆうつもりなの? 亮君?」

 学校からの帰り道。

 昨日同様に里香と翔子を連れて歩いていると、俺の左腕に自分の腕を絡めるようにしてギュッと抱き付いていた翔子が、口を尖らせるような口調で、尋ねてくる。

 背丈の関係上どうしても上目つかいで俺を見つめてくる為、恐らく怒っているであろう翔子の態度でも、何だか子供が拗ねているような微笑ましい光景に変わってしまっているのは内緒だ。当人に言ったらきっと怒られる。

 

「ほんとに。なんでまだ園原先輩と話をしないといけないのか分からないんだけど」

 そんな翔子と反対側。右腕に同じく腕に抱き付いているのは、当然ながら里香な訳だが。

 こちらは明らかに不機嫌そう、というよりはイライラとした態度で、口調も態度も棘とげしい。

 幾分か昨日より、右腕に抱き付く里香の力も強まっているようで、まるで逃がさないとでも言いたげな様子。


 二人が確認したい事。それは今日のお昼にあった園原先輩オファーを受けた校内新聞の件についての話だろう。

 里香や翔子がヒートアップしてしまい、思わず俺が止めに入って、また明日話をしようと約束した事を、二人共根に持っているようで。

 結局あの昼休みも、先輩が席を立ってから、まだ食べ終えていなかった食事を二人が再開し、結局食べ終わった頃には、ほとんど昼休みが終わっており、まともに話をする事なく、俺達はそれぞれの教室に戻る事になってしまい、放課後のこの時間まで話が先延ばしになってしまっていた。


 時間が空いた事で、少しは二人がクールダウンして、冷静に物事を考えてくれるかと思ったが、残念ながら今だに何やら誤解がありそうな様子で。

 

「初めに言っておくが、別に先輩に記事を書いて欲しいから、時間を取ろうとしている訳ではないぞ」

「「え? そうなの?」」

「……やっぱり二人共そう思っていたのか」


 恐らく、というかそれ以外勘違いを生みそうな会話も無かったので、そうだろうとは思っていたが、案の定俺が記事を書いてほしいと思われていたらしい。

「俺がそんな目立ちたがりに見えるか?」

 物心ついてから今まで、人前に出る事すら進んでした事が無いというのに。


「いや、高校デビュー? っていうのをしたいのかなって」

「女子にモテてハーレムだー! みたいな事を考えているのかと」

「お前ら、俺を何だと思っているんだ……」


 これまで十年以上ほぼ家族の様に生活をしてきたというのに、まさかの言われ様に、若干ショックを受けていると。

「い、嫌だな~ ジョークだよジョーク!」

「亮君はカッコいいから心配しちゃったよー」


 と、あからさまなフォローを入れられ、更にショックを受ける。

 俺ってそんな単純な生き物に見られていたんでしょうか?


 しばらく落ち込みながら、帰り道を歩き、もう少しで家につこうかという所で。

「でもなんで、それなら明日にまた時間を取るような事をしたの?」

 との翔子からの質問で、マイナス思考に陥りそうになっていた所から復帰して、俺はどう伝えようか頭を悩ませる。

 実際は二人の事を考えての行動だったが、それを言ってしまうと、二人的には必要も無いのにフォローされたようで気分を害してしまうかもしれない。

 考え過ぎかもしれないが、態々険悪な空気になってしまうリスクを負う必要もないだろう。

 とはいえ、口籠ってしまうと、やっぱり記事を書いてほしいのかと、誤解を受けかねない。

 

 極わずかな時間で、俺は最適解を計算すると、出来るだけ本当の事の様に演技をしながら、口を開く。


「いやー。もっと先輩と話をしてみたいなって!」


「「は?」」


 あれ? なんかさっきより空気悪くなってませんか?

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