第33話 激闘! 鉄研水雷戦隊!

 それからあと、鉄研のみんなはYouTubeの配信でがんばっていた。同じ志の「頑張ろう鉄道模型」といったハッシュタグキャンペーン、「鉄道模型で日本を元気に!」という鉄道模型youtuberの動画キャンペーンにも彼女たち鉄研は参加したのだった。


 そんななか、厚労省の感染対策の要、クラスター対策班の姿がちらりとテレビに映った。そこにやはり舘先生らしき人がいた。高校は春休みもゴールデンウイークもなく、先生も高校の授業を他の先生に任せたのだろう。遠隔授業の担当は別の先生だった。

 それを知らされて、舘先生が活躍しているのはほぼ確定だった。

 でも鉄研のみんなは、先生のそれを嬉しく思っていた。この自粛の中ではなにも自分で事態に対して直接能動的なことが出来ないのが最大のストレスだったので、知り合いが直接事態に対抗しているのだとわかるだけでも楽になるのだった。

 この自粛も、家にこもっての鉄道模型YouTube配信にも意味があるのだと思えるのはまさに救いであった。

 そして、先生が頑張っている限り、この事態の先に解決の希望があるのだと信じることが出来た。

 それが、数少ない、この自粛の日々の救いだった。


 そんな2020年5月11日。

「うぬぬ!! ケ シ カ ラ ン !!」

 また総裁が激しく吠えていた。

 総裁は同時にTwitterのタイムラインでも吠えていた。千葉の地方私鉄・尾湊鉄道のTwitter担当者が強引に更迭されたことをツイートしていたことに激昂しているのである。

「もー。総裁血圧高いよー」

「これが看過できるであろうか! 彼のツイートはこの重苦しい自粛下での貴重な一服の清涼剤のようなものであったのだ! それを『ふざけている』という理由で突然クビとは。なんたる無理解! け、け、ケシカラン!」

「でも、彼もやりすぎのとこはあったかもしれませんよ」

「斯様な小さな私鉄のアカウントがこの世界で伍していくのに、他に方法があるものか!」

「でも阪急電鉄のTwitterとかは抑制的ですよ」

「尾湊鉄道が阪急電鉄と比較されるとは! それこそ大功績ではないか! 大手私鉄に地方小私鉄が比肩しうるなど、まさに大金星ものであろう! その功労者を無下に処分とは! なんたる不見識!」

「でもLINEスタンプとか勝手に作っちゃったらしいし」

「勝手にやらずしてどうやるのだ? そもそもこの上層部はLINEそのものを知りもしておらぬようだぞ。『そんなものやってどうなる』『金にならん』と無下にあつかっておったとの報もある。そういう土壌で彼がガイドラインも武器もなく、ただノルマだけ課せられてどんな苦闘を強いられたか! 彼に企業人としての態度を要求するなら、会社が企業としての振る舞いをなにかまともにしておったのか?! それに周りも『彼も悪かった』とはどういういいぐさなのだ? 権威権力とともに斯様な個人を抑圧して平気な心証とは何だ? 斯様に追い詰められれば人間苦しさに何をするかわからなくなるのは当然であろう! それを追い詰めた挙げ句に間違ってると断ずるとは何たる非情! 非人道的である! 人間としての優しさのかけらもない! いや、もはや血の通った人間の所業に非ず! 喝!!!」

 総裁がZOOMの中で叫ぶ。

「どうせ鉄道会社など、斯様なことなどいくらあっても痛くも痒くもない。ファンをどんなに失望させ裏切っても、子どもたちの夢をどんなに踏みにじろうとも。それで経営がかわった会社など皆無! 鉄道会社に代わりはなくとも乗客個人やファンには代わりはいくらでもいるのだ! 鉄道趣味とは斯様に虚しく無意味なものなのだ。ゆえ、ワタクシは斯様な所業に我慢がならぬ!」

 総裁は吠え続ける。

「鉄道会社は人で出来ておる。それを斯様に人材を粗末に扱うとは! 痛くも痒くもないだろうが、ワタクシはゆえ、断じて許さぬ! 絶対に許さぬ! 誰がなんと言おうと許さぬ!」

「あああ、総裁の沸騰が止まんない! それにこういう遠隔だと総裁に甘いもの食べさせて炉心緊急停止スクラムさせらんない! ひいいい! ヒドイっ!」

「ええい、ケシカラン! そこになおれ! 鉄研制裁であるのだ!!」

「もー。総裁ー」

 そういう華子が画面の中で何かを食べている。

「総裁も食べなよ―。シャトレーゼマルチフルーツドロップ」

 華子はそういいながら、やたら美味しそうにそのアイスを食べている。

 とくにここ数日、五月晴れで暑いのだ。

「美味しそうですわ」

「こういう日はアイスだね!」

「ハーゲンダッツまでいかなくても美味しそう!」

「いいなー」

「華子の食べる様子もあざとく美味しそうでヒドイっ」

 それを見た総裁が、次第に涙目になっていく。

「う、う、う」

「これ、セブンイレブンで売ってるよ」

 華子が煽る。

「う、う」

「数量限定だって」

「うー!!」

 総裁がついに我慢しきれなくなった。

「買いに行ってくるぞよ!」

 総裁はがばっとかたわらの財布をひっつかんで、でかけていった。


「もー、総裁PCそのままで買いに行っちゃったよ」

「でも沸騰する総裁の緊急停止スクラムに成功いたしましたわ」

「華子ちゃんナイス!」

「てへー。ほめらりたー」

「これから総裁がうるさいとき、これ使えるね。ヒドイっ」

 総裁のいない間にみんなそんなことを話している。 

「でも、模型につかうインレタ屋さんがおやすみで、作業が進みませんわ」

「YouTubeネタも毎週やってたら枯れてきた―」

「こまったねえ」

「それに著者さんも突然この話書き始めたし。小説は動画ネタにしにくいっつ―の」

「まいったなー」

「総裁、コンビニに買いに行って頭冷やしてくれればいいんだけど」

「そうだねえ」


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