第18話 保存! 希少客車!

 ギースル氏のアトリエから車で出発した。

「北関東にも、個人で鉄道車両を保存してる人がいるんだ」

「そうですか。でも車両の保存は大変だと伺っております」

「ああ。列車はすぐ錆びるし、メンテナンスも独特の技術が必要だからね」

 彼はそういいながら運転していく。

「ほら、あれ」

「あっ!」

 みんな驚いた。

「こんなところに客車が保存されてる!」

 道路に面した民家の前に屋根で覆われて、その旧型客車はあった。

 ダブルルーフの屋根の下、シルヘッダーの窓と大きな扉を備えた重々しいボディの茶色に所々塗装が剥がれて浮いているが、それでもまだ状態は良さそうだ。

 もっと悲しい保存状態の保存車を見慣れている鉄研のみんなは、そう察した。

「スエ38だ。もと特急『富士』に連結されてた荷物車カニ39だった」

「すごーい!」

「スエ、重量等級『ス』に用途記号『エ』は救援車ですね」

「ああ」

「これ、履いてる台車はイコライザー式3軸ボギー台車ですね!」

「ああ。TR71。マイテ39についてるのはこれのこれの改良型TR73だ。現存するTR71はここの2つだけだ」

「そうですよね! すごく貴重ですね!」

「写真撮っていいですか!」

 みんなコーフンしている。

「それはオーナーに聞いてからにしようか」

「はい!」

 みんなでオーナーがいないかと民家の玄関に回る。


「あれ、駐車されてるこのヴェルファイアは?」

「タキシードボディ塗装……えっ、まさか!」

 よく見ると、民家の表札には『舘』と書かれてある。

「ええっ、これ、舘先生のご実家!?」

 みんな驚いている。

「えええええ!!」

 すると、民家の向こうから、ひょっこりと顔をのぞかせている舘先生が見えた。

「先生!!」

「あれ、どうしたんだ?」

「どーもこーもないですよ!」

「なんだ、君ら、茨城遠征してたのか」

「そうだ」

 ギースル氏が答える。

「そうか」

 すこし舘先生はみんなとギースル氏の顔をみて、考えていた。

「まあ、いいか。スエ、見たいのか」

「はい!」

「ちょっとまっててな。鍵持ってくる」


 先生がスエのドアの鍵を開けた。

「入っていいよ」

「本当ですか」

「レディーに嘘はつかないのが流儀でな」

「あぶデカっぽい!」

 みんな狂喜している。

「では、お邪魔するのだ」

 みんなで客車の中に入る。

「中は図書室になってるんですね」

 荷物車だっただけあって、窓には保護棒が、天井のランプにも保護枠がはまっているのだが、木造のボディはしっかりと構造を保っているのがわかる。

「ここらへんの子どもたちに開放しようと思ってな。ここが貸し出しカウンタで、ここっちには別の客車の椅子を取り付けて、ここに腰掛けて本を読めるようにしてあるんだ」

「ステキですわ!」

「で、この傍らには」

「まあ! おしゃれなミニバーになっていらっしゃるのですわね! ステキ!」

「そうだ。俺たちがちょっと飲むコーナーも作ってある」

「大人の遊び場、ヒミツ基地といった趣向でありますな!」

 総裁も喜んでいる。

「ああ。ライブスチームのレールもしいてある」

「すごすぎてヒドイっ!」

「ツバメちゃん、ひどくないよー。ステキだよー」

 みんなはこの客車のディテール写真を撮ったりしてすっかり楽しんでいる。

 その間に舘先生と彼はなにか打ち合わせている。

「君ら、明日帰るのか?」

「そうできればいいと思ってました」

「じゃあ、うちに半分泊まる? 風間の家と俺の家で3人ずつ」

「いいんですか!」

「ああ。車もおれと風間の車2台出して、明日いろいろ見せてやるから」

「すごーい!」

「ありがとうございます!」

「いいってことよ」

 舘先生はそう言うと、ミニバーの冷蔵庫から飲み物を取り出してちびちびと飲んでいる。

「ギースルさんと舘先生はこうやって良く会ってるんですか」

「いや、ちょっと久しぶりなんだ」

「まあな」

「でもお二人並ぶと、まさに『あぶデカ』のタカ&ユージって感じですね!」

「今でもそう見える?」

「見えますよ! ステキです!」

 二人は笑った。

「ここで兄貴が花の栽培農家やってるんだ」

「舘先生のご実家なんですね」

「ああ。兄貴にも昔、メーワクかけたから、だから時々手伝いにこっちに帰ってるんだ」

「そうなんですか」

「兄貴がライブスチームやってる。俺もボイラ免許持ってるから、二人で運転できる。それで子どもたち集めてたまに乗せて走らせるんだ」

「すばらしいですわ!」

「しばらくやってなかったんだけどな」

 え?

「まあいいさ。夕飯はつくばのイオンモールいくか。ついでに模型持ってきてるんだろ? イオンモールのポポンデッタで運転していけばいい」

「いいんですか!」

「ああ。せっかくレディーたちが車両持ってきたんだから」

「まあ!」

 詩音はまた狂喜して、しすぎてくらくらしている。

「もうしばらくこのスエを愛でて、そのあと明日の日程立てよう」

「はい!」


 車2台でイオンモールに向かう。

「ありがとうございます!」

「いいってことよ。カオルと華子、風間のやつの車だと狭くて大変だっただろ?」

「……正直」

「そうだろう。すまないな」

「いえ、先生にこっち来るってなんにも申し上げてなかったので」

「そうか」

 車はバイパスを走っていく。

「あそこが結婚式場。結婚式やるとあのプールに飛び込むバカが必ずいてね。あぶねーっつーのに」

 みんなで笑うが、その手はケータイのLINEでこっそりメッセージをやり取りしている。


 総裁、ギースルさんのアトリエのあのスケッチ……。


 さふであるな。あれは間違いなく実際にどこかの線路を走ったC63をスケッチしたものだ。

 やはりギースル氏と舘先生はC63に何らかの関与をしておるのだ。


 でも、実際にC63が走ったのを、どうやったらヒミツにしておけるんでしょうか。C63を保存しておくだけでも大変なのに。


 わからぬ。だが、あのスエの手入れを見たところ、個人であそこまでは出来ぬ。やはり何人かが集まってやっておるのだろう。


 それが『秘密組織』ですか。


 かもしれぬ。ただの人畜無害な救援客車スエの『保存会』かもしれぬが……。


「ついたよ。イオンモール。ちょっと駐車場混んでるから屋上に行くよ」

「あ、はい!」

 舘先生の声にみんなちょっとドキリとした。

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