第23話 集合! 平成の名車たち!
「ここ、ゴルフ場じゃないですか。ここに何が?」
筑西市に着いた一行は、ここで車を止めて降りた。
「ここはテーマパークなんだ。茨城を代表する企業グループの代表事業家がライフワークとして作ってる。町工場から身を立てたその彼が機械製造の工場、流通開発の商事会社、教育健康部門の学校の3つの分野を組合わせた複合企業体ってのがそのグループで、彼の夢がこのテーマパークづくりなんだ。ゴルフ場や各種スポーツ施設、美術館や学校、農園に薬草園に温室といった農業施設がある」
「なんか、『男の子の夢のおもちゃ箱』1分の1スケールって感じですね」
「そうだよね。それでもここまでやるのは立派なもんだと思う」
「そうですね……」
「バーベキュー場やロッジもあるんだ」
「すごい……」
「美術館にはこの地域の洋画の巨匠や大観の絵、陶芸作品もある。クラシックカーや図書館もある」
「学校って?」
「ああ、歯科衛生専門学校が2つある。その学生1000人に返さなくていい奨学金与えてるんだ。でも君たちの喜びそうなのが、鉄道車両の保存だ」
「噂は少し聞いてましたが」
「ここだ。ここで入館料払って入る」
ゴルフ場のクラブハウスのなかを通る。
「すごい!!」
鉄研のみんなは思わず歓声を上げた。
「新幹線E2系にEF81にD51!」
「『北斗星』の客車も保存されてますわ!」
「関東鉄道や鹿島臨海鉄道の気動車も!」
みんな、喜んで写真を撮ろうとする。
「まあ、そのまえにお昼ごはんしようか」
「あ、そうですね! はい!」
テラスの椅子に腰掛けて、買ったおにぎりとおかずでお昼ごはんになった。
「保存車両、状態いいですね」
「露天保存だから痛みやすいとは思いますが、補修もまめになされてますね」
舘先生とギースル氏はうなずいた。
「鉄道車両は独特の構造で出来てる。鉄でできててもその上にパテで整えた上に塗装されてる。その補修には経験が必要です。普通の塗装屋さんに何の考えもなく丸投げしたらダメですね」
「地域によっては自治体がそれを発注してるけど、たまにそれがとんでもないことになることあるもんねえ」
「まして民間個人レベルでの保存は困難の極みです。運ぶだけでも何千万もかかって、それで力尽きて屋根も作れずに置いてある車両は雨と湿気で屋根と床下がどんどん腐食する」
「その腐食をちゃんと取り除いて処置してから塗らないとあれよあれよと構造までだめになりますわ。結果、払い下げてもらっても保存というより、ただのスクラップの先送りではないかという例もあります。とはいえ、それでもそれを責められませんわ。その段階でも身を切って保存にお金をかけた彼らには頭が下がるのです」
「無責任に状態あーだこーだと言っちゃダメだよね」
「保存車にはそれぞれに、残したい人々の切ない思いがこもっているのでしょうね……」
みんな舘先生の家のあの救援客車『スエ』を思い出した。
先生も、その切ない思いを持っているのだろう。
そして、まだはっきりと明らかになってないけれど、C63にも、きっと。
「君たち食べるの早いね。じゃ、車両見学しよか」
「はい!」
詩音がもってきたポーチから車両ケースを取り出した。
「D51 1119ですわ。わたくしたちの神奈川県央・厚木市の公園で保存されている機関車です。持ってきたので、せっかくですので表敬ということで並べたく存じますわ」
「写真ぼくが撮る―!」
カメラを取り出したのは撮り鉄の華子である。
「あれ、EF81についてるヘッドマーク、これ、『赤富士』じゃないですか!」
「すごい! これも写真撮りましょう!」
「うむ、このEF81のスノープロー、先端部はこうなっておるのか」
総裁がその形状に気づく。
「所属する地域によって造作が違うんだ」
「これはNゲージでは小さすぎますが、HOゲージで作るとしたら再現できますのう」
「そうだね」
「機関車の中はヘッドマーク展示館になっておるのだな。側面に現役時になかったドアが取り付けられておる。これもまた保存と展示をバランスさせる工夫であろうの」
「そうだね」
みんなで2列に置かれた保存車の真ん中のプラットホームを歩く。
「EF81の後ろには寝台特急『北斗星』の客車が。オロハネ24 551。Aロイヤル個室にBソロ個室を備えた寝台車であるのだな」
青い車体に金色の帯が配された、愛称『ブルートレイン』らしい姿が見える。
「Nゲージでお馴染みですね! ぼくももってるー!」
「その次はスシ24 505。電車食堂車からの改造で編成の中で他の車両と屋根の形がまったく違うのがアクセントになってくれておったという」
「車内もそのままで往年の賑わいが聞こえてきそう!」
「その次がオハ25 503。ロビーカーであるのだ。この車はJR東日本受け持ちの編成につながっていたタイプであるのう」
「2015年4月の臨時『北斗星』に2年ぶりに復帰したことでも有名な車ですね」
「シャワールームも備え、『北斗星』の豪華サービスを支えた功労者であるのだ」
「末期は自販機も故障、TVモニタも公衆電話もなかったらしいけど、こうして満身創痍の運転状態から、こうして大事に保存されてるのは幸せかもしれないですね」
「この外装に描かれたLOBBY CARのロゴがまさしく昭和末期から平成のエッセンスであるのう」
「入口ドア上のの『ロビーカー』のロゴもまたステキですわ。きっとこの書体は国鉄書体なのではないでしょうか」
「最後がオハネフ25 12。東オク、尾久車両センター所属の5両のうちの1両で、編成端の1号車に連結されておったようだ」
「2段寝台のワンボックスを4人B寝台個室にしないまま、開放B寝台のままだったんですよね」
「それもまた貴重な存在であったのだ」
「独特の車内はそのままみたいですね」
「最後尾の車掌室内、機械に貼られたテプラなどもそのままで、外装はやや痛みがあるとはいえ、上野駅13番線、トーサンバンの在りし日の姿を思わせるのう」
「ステキですわ!」
「保存車とはいいものであるのう。思いが伝わってくるのう」
「ここに保存されてる車は恵まれてますね」
「いや、他の保存車も、みな愛に包まれておることには変わらぬ」
その総裁の言葉に詩音が、うっとりとつぶやいた。
「もう重機の餌になってしまうところを救われたこの子達、みんな、安らいだ笑顔でいるように見えますわ」
詩音は車両を「子」と呼んだ。
「さふであるのう」
総裁も同意して腕を組んだ。
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