第28話 奮闘! 吠える総裁
「うむ、こういうときこそ我らの出番であるのだ!」
ビデオ会議アプリ・ZOOMの画面で総裁が吠えていた。
「有名鉄道系YouTuberの皆さまの多くが、このコロナ禍のせいで外出も旅行もできずに深刻なネタ不足に陥っておる! それでただただおしゃべりとゲーム実況と過去のネタの再放送しかできぬとは、もはや見ていて痛々しいことこの上なし! しかし! こういうときこそ、ステイホームであってもネタに事欠かないインドア趣味・鉄道模型の真価を発揮するときぞ!」
「もー、総裁血圧高いよー」
「ゆえ、ワタクシはこの時局に鑑み、我が鉄研YouTubeチャンネルで鉄道模型ライブを毎週水曜日21時に放送する大作戦の発動を決意したのである! ゆえ、部員諸君は鉄道模型ネタ動画をワタクシに提出するのだ。ワタクシと華子くんでそれを編集して放送し、この自粛生活の元で息苦しい日々を送る人々を応援するのである!」
「すてきですわ! 意義深いですわね!」
詩音も喜んでいる。
「まあ、ネタはあるよね。僕も将棋奨励会の棋戦ぜんぶ止まっちゃったし。家で鉄道模型やってるしかないし」
カオルもうなずく。
「お店もあけられないからおとーさんすごく悲しんでるー。だからなにかできるのはいいと思う―」
華子も納得している。
「私もいいと思う」
御波も賛同する。
「ツバメちゃんは?」
「もちろん賛成。ひどいっ」
「ひどくはなかろうに」
「でも、茨城に行けなくなっちゃったわね」
ツバメもちょっと困った顔になった。
「まあ、仕方ないわよ。こういうときだし」
「さふである。県境を越えての不要不急の移動は感染拡大防止のためには禁忌なり」
「そうだよねー」
「でも撮り鉄の人がそれでも車両撮影してますよね。横須賀線E235系の
「うむう」
「私だって小田急新5000形撮りに行きたいわよ。小田急久しぶりの新型通勤電車だもの」
「興味深いのでわたくしも乗りに行きたいのですが、そうもいきませんわねえ」
「車内を広く見せる工夫という室内照明配置など、ワタクシも実際に拝見し検討したいのだが、そうも行かぬ……ぐぬぬ」
「それに期待のJR西日本新型夜行列車『WEST EXPRESS銀河』の運転開始も延期ですよ。すごく期待してたのに」
「このままだと今建設中の小田急ロマンスカーミュージアムの開館も延期になりそうですし」
「この事態が解決するまでの我慢とはいえ、楽しみがどんどん遠くなりますね……」
「うむむ、思いの外事態が深刻であるのだ。わが著者がはじめておった夜勤バイトは幸い100%リモートワークであるのだが、昼の某役所臨時職員バイトは休館ですっかりなくなってしもうた。最低時給で時間数も少ない割りに合わないバイトだったが、その上あっさりなくなってしまったのはナンとも」
「ほんと、いろんな意味で割にあわなかったですよね」
「あ、でも茨城遠征の旅費、著者さんちゃんと払えたんですか! 総裁著者さんのクレカじゃんじゃん使ってたけど、支払い大丈夫だったの!?」
「うむ、夜勤バイトの給料でちゃんと払えたらしい」
「よかった!」
「だがのう……」
「舘先生のこと、気になりますね」
「さふなり。ワタクシも気になっておった」
「結局、謎はどっさり積み残されてるし」
「うむ。ただ、若きころの舘先生が習字教室で子どもたちと戯れておる写真」
「ああ、あの著者さんが記述忘れしてた」
「というかあれ、後付けでやったんじゃないの? 著者さんそういうのめちゃ苦手だから」
「推理作家協会員なのに推理めちゃ苦手だもんね」
「うむむ、ワタクシもそこは懸念しておった。しかし、若き舘先生は当時、高校の先生を目指さずに、なにかべつのものを目指しておったのだ。そしてその習字教室は、おそらく千葉で活躍したあと、どこかで保存となった165系お座敷電車『うのはな』の先頭車の車内であるのだ」
「え。『うのはな』って都市伝説になってるアレ?」
「さふなり……」
「あれ、ほんとうに保存されてるんですか!」
「うむ。都市伝説では非公開で千葉某所のお寺の住職さんが保存し、お寺の習字教室の部屋として活用されておったという」
「でも噂段階ですよね」
「そしてその住職さんも亡くなり、『うのはな』先頭車は完全に行方不明となる。解体された形跡もまったくない」
「でもそれ隠すってどこに隠すんでしょう。あれ長さ20メートルもあるんだし」
「C63と同じく、完全な行方不明であるのだ」
「マジですか……。2両もそんなのがあるなんて」
「日本ってそんな余裕のある国でしたっけ」
「まさに怪奇なる事件なり」
総裁はそう息を吐いた。
「そして、ワタクシは先ごろ、フと気付いた」
「何気付いてるんですか。もー」
「テレビに映るあのクルーズ船の映像である」
総裁がPCの画面を見せる。
「テレビをキャプチャした映像」
「横浜港の集団感染の発生したクルーズ船に派遣された医療スタッフの姿ですね」
「そうなのだが、この港のテントの中の人、誰かに似てはおらぬか」
総裁がその映像を拡大する。
「うっ」
みんな、思わず声を上げた。
「サングラス……」
「これ、まさか舘先生??」
「うむ、ワタクシもびっくりしたのである。他人の空似かと思うたが、どうにも気になってならぬ」
「あんな動態保存の昭和、そうそういませんよね」
「お笑いタレントでバブル風味をネタにしてる人いるけど」
「最近ではテレビのお笑いも質が変わってしまったような気がするがのう」
「総裁いきなりお笑い評論しようとしないでください」
「ワタクシの目の黒いうちは真打ち昇進など認めぬ!」
「なにノッてるんですか。ひどいっ」
「これはひどいよねえ」
「そこまで怒らなくてもよいではないか」
「あーあー、また話が脱線してますよ」
カオルが呆れて言う。
「でも、舘先生がなんで感染対策の現場に?」
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