第13話 ピザ! まだ冷めてないよ
御波のLINEの通知が鳴った。
「なんだろう」
――総裁が晩ご飯にこのホテルにピザの出前頼んだんで、総裁の部屋に集まって食べない?
「また総裁何やってんの……著者さんのカードで払う気ね。ヒドイなあ。でもホテルにピザって頼めるんだ……」
――フロントに出れば受け取れるんだって。
――もう頼んじゃってくる途中みたい。というわけで命令電波。集合ー。
「相変わらず強引だなあ」
御波はため息を一つ吐いた。
「でもまあ、……楽しいからいいっか」
と独りごちて、御波は財布とケータイとタロットカードを入れたサブバッグを持ってホテルの廊下に出た。
「でもこのピザちっさーい」
華子が不平をいう。
「ピザ頼むなんて何年ぶりか分からぬからの。そしてこの宿で夕食難民となるのを避けるためにアプリ見つけて注文したのだが、やはりMサイズでは足りなかったか」
「というか総裁、著者さんのカード使いすぎですよ」
「使い過ぎは自重しておったが。ゆえ、頼んだピザもLではなくMにしたのだが」
「そういう問題じゃないですよ。ヒドイっ」
「そうです、ひどいですわ」
「うっ、これは皆の空腹をなんとかしようと思うだのだが。かくなる上は致し方あるまい、フロントにどん兵衛を買いにいくしかないぞよ」
「じゃ、みんなのぶん買いにいってきまーす」
華子が行こうとする。
「待つのだ。ここで皆で考えたいことがある。それにいっているうちにピザが冷めてしまうぞよ。先に食べながら考えたいのだ」
「なーにー?」
「まず明日、いよいよギースル氏にお会いする。しかしかなりここまでで館先生の真相についてのヒントが見つかっておる。それを整理したい」
総裁は声を整えた。
「まず最大の焦点はおそらく88年である。『いい思い出になるはずだったのに』とギースルさんはそれを申された。なにか88年にギースルさんと館先生になにか辛いことが起きたのであろう。その出来事とはなんであったのか」
「オリエント急行がらみだったんでしょうか」
「あの年の鉄道の話題では最大の出来事であるからのう。そして幻の蒸気機関車C63がどこにいるか。ギースルさんの画力でもあのC63のイラストの躍動感はただの想像図とは言い難い。あのリアリティはどこかでC63実機を見たか、それに相当する何かを見たとしか思えぬ」
「ギースルさん、もしかするとそういうのが分かる学校とかで研究してたのかな」
「うぬ、ツバメくん、ギースルさんのここまでの経歴についてなにか他にわかったことはないか?」
「そういうプライベートな昔のこと、ギースルさんあんまり言わないなあ。それなのに88年のことを言うとき、テツな話だけじゃなくてえっ、ってなって覚えてるわけで。ヒドイっ」
「ひどくはありませんわ」
「うぬぬ、ナゾであるのだ」
「ほかにもあれっ、ってところありますよね」
「そうなのだ。もしかするとその件とギースルさんがこの常磐線系統の鉄ネタをイラストに描かない理由と関連しておるのと思うのだ」
総裁は、少し間をおいた。
「なにかがあったのだ。とくに1988年オリエントエクスプレスの時期に」
「多分そうでしょうね。でもC63の件がそれとどう関わっているのか。別々の話かもしれないけど、舘先生とギースルさんがそのころテツの親友だとしたら、大きく考えればそこから発生した件のような気がします」
「興味本位でつついていいことではなさそうだ。が、舘先生のあの表情は見てはおられぬ」
「重たい問いになってしまいそうですわ」
「さふであるのう」
そう言って総裁はコーラをすすった。
「C63が密かに建造されて隠されてるってなると、警察やJRや当時の国鉄が黙ってるわけ無いですよね。見方を変えればこれ、犯罪じゃないかなと思えてくるし」
「それもさふであるのだ。それを上回る何らかの重たい理由があるのだ」
「どういう理由でしょうね」
「政治が絡んでおるのかもしれぬ。でもこの件。明らかになったらとんでもない『事件』になる。幻の機関車がなぜ現存するのか、それがなぜ秘密のままにできたのか。ワタクシは正直、不安でもある。このことを隠すにはかなりの力が必要だ。その力のせいで人の人生が狂ってしまう。場合によっては逮捕者が出るかもしれぬ。それなのにそれを調べておるワタクシたちは女子高校生に過ぎぬ。つついてヤブから蛇が出るでは済まないかもしれぬ」
「バイトで海老名署特殊防犯飛行隊でMU(注:小型浮上装置。「鉄研、バーズアウェイ・鉄研でいず4」参照)使ってるけど、私達結局は臨時職員で、警察官じゃないですもんね」
「最低時給ギリギリであんな機械使って危険の伴う防犯活動させられるとは実に憤慨なり」
「官製ワーキングプアですもんね。臨時職員」
「まして臨時職員、会計年度任用職員という名前になって団結権も奪われた。まったく、役所にとっては都合のいいことこの上なし!」
「役所が率先してそういうグレーというかブラック雇用してちゃ、世の中がまともになるわけ無いですよね」
「そのうえ障害者は人に非ず、と総理は例のシュレッダーの話の時に言うてしもうたぐらい我が国の厚生労働環境は羊頭狗肉な劣悪さである。外国人も日本は観光に行きたいけど住みたくない国だ、というようになってしもうた。そして技能実習制度もまた現代の奴隷制度なり! 実にけしからん!」
「ひゃああ、総裁の憤怒がとまんなくなった!」
「ええい、けしからん! ワタクシは絶対にゆるさんぞ!」
「はい、総裁のスイッチドーンと押します!」
「総裁、はいもっちりクレープ・ダブルレアチーズケーキクリームですよ!」
「……はむはむ」
総裁は渡されたコンビニスイーツを食べ始めた。
「静かになった」
「レアチーズおいちい。はむはむ」
「もー、総裁血圧高いよー。だからこうやってコーフンしちゃうんだよー」
「はむはむ」
食べている総裁を見ながら、みんなは息を吐いた。
「でもこれ、どうなっちゃうのかなあ」
「わかんないー」
水戸の夜は更けていく。
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