第12話 水戸! 東横イン!
「見えてきたのは偕楽園ですわ」
「うむ。では荷物をまとめてデッキに向かおう。降車するぞ」
「あの、でもなんで水戸なんでしょう。ギースルさんのアトリエは水戸までの途中の土浦では?」
「そこであるが、ギースルさんにこの訪問の話をしたところ、さっと水戸の東横インの部屋を人数分おさえてくれたのだ。ありがたく泊まらせていただこうという算段なり」
「宿代浮かそうって話ですね。でもギースルさんお金持ちで気前いいなあ」
「『レディーたちをうちの汚いアトリエに泊まらせるわけには行かないからね』って言ってました」
「わ、舘先生みたい!」
「さすがご友人であるのう」
「ところでギースルさんってどんなヒト? ツバメちゃんは会ってるけど私達はまだだから。想像もつかない」
「え、ヒドイっ、って、ひどくないか。ギースルさん、風間さんは、なんというか……俳優の神田正輝さんみたいな」
「ええっ、菅田将暉!?」
「それは『かんだまさき』ちがいだようー」
「なぜ活字を見られない会話でそういうのがわかってしまうのかは『鉄研でいず!七不思議』のひとつなのですわ……」
「でもギースルさんの中の人が『太陽にほえろ!』西條刑事だとはびっくりなり」
「総裁もテレビドラマのたとえが古すぎるよー」
「ツバメちゃん、惚れてるからすこし補正かかってない? ハンサムすぎないかなあ」
「『恋は盲目』とも言うからのう」
「……そうかもしれないなあ。ヒドイっ」
「ひどくありませんわ」
「でもその西條刑事の手配のおかげで水戸の夜のプランはフリーになっておるのだ」
「夜の街に繰り出すなんてことはしないけど、鹿島臨海鉄道乗りたい!」
「ついでに大洗にちょっとだけ行きたいなあ」
「うむ、我が鉄研も『乙女のたしなみ・テツ道』の隣接領域たる『戦車道』への意欲充実で実に慶賀なり」
「というかどっちが先だったんでしょう」
「わかりませんわ……」
「ともあれ、駅から宿に行って荷物をおいて、オプションツアーについては身軽になってから考えようかのう」
「賛成ですわ」
列車はカーブを減速して水戸駅にすべりこんだ。
「みんな降りた-?」
「降りましたわ」
「せっかくだからここまできた特急『ひたち』の車掌さんのドア扱い操作を見学しましょう」
「動画ぼくが撮るー」
「華子に記録はお任せいたしますわ」
「電車、いっちゃった」
みんなでE657系特急『ひたち』のテールランプが勝田方面に消えていくのを見つめていた。
「では、宿にゆこう」
「はい!」
「ところが、である。水戸の東横インは駅からちょい遠いのだ。ゆえ、タクシーを割り勘して乗るぞよ」
「ありがとうございます。荷物かかえてあるくのは正直」
「詩音くんは体の具合のこともある。タクシーに払っても体力温存が第一選択であるのだ」
みんなでペデストリアンデッキを降り、下のタクシー乗り場にゆく。
「すみません、東横イン水戸駅南口おねがいします」
タクシーの運転手さんが愛想よく荷物の積み込みを手伝ってくれる。
「とはいえタクシー専用のはずのロータリーにマイカーがばんばん乗り入れてしまい混沌としているのももはや水戸名物であるな」
総裁が一緒のタクシーの詩音に話しかけ、タクシーの運転手さんが茨城弁でそのマイカーのマナーを恥ずかしがっている。
「そうかもしれませんわね」
「あと、東横インに泊まると夕食にも困るのだ。食事のできるところが遠いからのう。そのせいか、ホテルのフロントでカップ麺『どん兵衛』を売っておる」
「まあ。そんなことが」
「とはいえ立地が悪い代わりに部屋が広くて楽であるのだ」
「総裁、何度か泊まってるんですね」
「さふなり。以前タクシー代をケチって駅との往復を徒歩にしたら、軽く遭難しかかったぞよ」
「そんな。おおげさ、誇張表現ではないのですか」
「うぬ、行けども行けども立体駐車場で歩道があちこち途切れていて、すぐ袋小路に迷い込んでしまい、心が折れかけたはまことなり」
「そうだったのですか」
「水戸、こうしてみると県庁所在地なのに街が暗いのだ」
「ほんとうですわ。いつもの海老名や本厚木より暗い」
「こういうことに気づくのも旅の効用であるのだ。電車代を3000円ほど払えば、ついたところは実はもう異世界なのだ。トラックにハネられなくても行けるぞ」
総裁はドヤ顔になる。
「そんなわけがありませんわ……」
タクシーを連ねて、鉄研一行は東横インについた。
「まさしく現代旅では東横インなどのチェーンホテルはまさに旅の友であるのう」
「でも総裁はゲストハウスとかにも泊まることあるんですよね」
「さふなり。二段ベッドのドミトリーなどは安くて楽しいぞ」
「総裁ほんとタフだなあ」
「では、みなでチェックインするぞよ」
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