第14話 集合! 宿の朝ごはん
宿の夜が明けた。
――起きた? おはよう。ロビーに朝ごはん食べに行かない?
御波は眠っていたが、そのLINEメッセージの着信に気付いた。
目をこすりながらケータイの画面を見る。
「ほんと朝早いなあ。『テツの朝』は早いっていっても、あれだけ夜中までおしゃべりしたのにこの時間に起きちゃうんだもんなー。血圧高いわよみんな」
そう独り言を言った御波は、そこでふっと思った。
ツバメちゃんの恋人に私たち、今日、会うんだ。
ツバメちゃん……。
御波はツバメと出会った大阪駅のことを思い出した。
札幌行きの最後のトワイライトエクスプレスのお見送りに行ったんだった。
ものすごい人出の混乱で、私、泣きそうになってた。
そこに現れたのが、ツバメだった。
コンデジ片手にさっそうと合わられたツバメは、とても凛々しかった。
大阪で知り合ったけど、彼女とは同じ神奈川ぐらしだった。
いつも元気で、乗車マナーに厳しいのはお父さんが鉄道運転士だから。
そのあと神奈川県立海老名高校に入学して、同じく入学した彼女にびっくりした。
これも縁なんだろうなあ……。
口癖の「ヒドイっ」はいつも合いの手で言っちゃうみたい。へんなの。でもなにか理由があるのかな。
イラストはめちゃくちゃ上手。私たち鉄研がまだ部員が少なくて同好会だったとき、生徒会ノートに鉄道イラストをツバメが描いてた。ものすごい評判だった。
聞いてみるとそのころすでにpixivでばりばり描いててファンも一杯いたらしい。
そしてその絵に引き寄せられたのが詩音ちゃんだった。
なにか詩音ちゃんとツバメちゃんはイラストの趣味でなにか黙ってることがあるみたいだけど、聞くとものすごく嫌がられるし、私もそういうの見たくないので聞かない。聞かなくてもいいことだと思うし。聞かなくてもツバメは親友だもの。それ以上はいらない。
鉄研の活動でも一緒だし、帰り道も一緒に相鉄に乗って帰る。私はかしわ台で、彼女は相模大塚で降りる。毎朝相鉄の電車で出会って高校に向かい、毎夕高校から相鉄でかしわ台まできて別れる。そんな日常を続けてる。
総裁とも仲良しだけど、ツバメちゃんもそう。その3人で鉄研を立ち上げた。
でも、ツバメちゃん、いつのまにかギースル氏と出会ってて、仲良くなってた……。
ちょっと寂しくもある。羨ましさもある。でも、ツバメちゃんの幸せも願ってる。
正直、複雑な気持ち。ありがちだけどね。
宿の1階に降りると、みんながすでに朝餉しながら話し込んでいた。
「御波ちゃんおそーい!」
華子が指摘する。
「ごめん、って、宿の朝食まで鉄研時間なの!?」
「さふなり。先手先手と行動するのが鉄研方式なり」
総裁はドヤ顔である。
でも、ツバメちゃんは……。
あまり良く眠れなかったのか、すこし顔に雲がかかったようになっている。
そりゃそうかも。彼氏を仲間に紹介するってそういうことなんじゃないかな、と思うし。
「水戸だから宿の朝食に納豆着くのかな」
「旅館だと当たり前じゃないかな―」
「うぬ、東横インでは各地で朝食が違うのだ。品川だと焼き立てパンがあったりする。この納豆はやはり水戸だからであろうの。それに予算が多いのか他の東横インより内容充実の感があるのだ」
「総裁なんでそんなこと知ってるんですかー」
「ワタクシのテツ道とはそういうことを知るのも一環なり」
いつもながらきゃいきゃいと戯れている中で、ツバメだけボーッとしている。
「ツバメちゃん、ヒドイっ」
御波が声をかける。
「あ、え、ええっ、ヒドイっ!」
虚を突かれたツバメが狼狽している。
「どうしたの、ツバメちゃん」
「ちょっとボーッとしちゃってた」
「そうだと思った」
ツバメは顔を赤らめている。
でもこうして見ると、ツバメちゃんって、快活だけど女の子らしく、ちょっと色っぽい……。
やっぱり恋すると、女の子ってそうなるのかな。
私にも、そういう人ができるのかな。
御波は複雑な気持ちのなか、それを整理しようと頭を働かせた。
でも、それは簡単には整理できそうになかった。
「朝餉を終えたら、その後すこしして土浦に出発なのである」
「土浦でギースルさんと合流ですね」
「さふなり。そこからギースルさんの車で移動であるのだ」
「ギースルさん、本当に神田正輝なのかなあ」
「ワタクシはツバメくんを信じておるぞよ」
総裁はそう言って腕を組む。
でもツバメはまたぼうっとしている。
「ツバメちゃん!」
「えっ、あ、うっ、ヒドイっ」
ツバメはまた狼狽している。
「世に『恋煩い』というが、ツバメくんの恋も、なかなか重症であるのう」
総裁がそう言って微笑んでいる。
「だからここまでみんなで来たんですよね」
御波はそう答える。
「さふであるな。ツバメくんの未来に幸多かれと思うのは真なり」
「でも、寂しくなるかもしれませんわ。またこれまでのようにビッグサイトの鉄道模型コンベンション出展やテツ旅をご一緒することは叶わなくなるのかもしれないと思いますと」
詩音がそう眉を寄せて言う。
「しかたないよー、それはー」
華子が答える。
「いつか、みんな、バラバラになっちゃうんでしょうね」
カオルも寂しそうに言う。
「『ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず』であるのだ」
総裁もそう言うと、少し寂しげな表情になった。
総裁もそうなんだ……。
御波はそう思って、すこしため息をつきそうになった。
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