第5話 ヒミツ! 先生の過去

「美味しかったねー」

「そりゃうちのおとーさんの料理だもん」

 華子は得意げである。

「そういや総裁のお家の話聞いたことないなあ」

「そもそも、総裁にお父さんとかお母さんとか、いるの?」

「いるぞよ」

「そうだよな」

 舘先生が微笑む。

「三者面談もやったのだ」

「ええっ、いつの間に」

「総裁、水臭いなー」

「うむ、しかし我が父母のことは軽々に話すことはできぬのだ」

 総裁はそういう。

「なんでー」

「そりゃ、事情があるのさ」

 舘先生が言う。

「そうなのかー。事情があるのかー」

 華子がうなずいている。

「華子ちゃん、なにかわかったの?」

「よくわかんないー」

「なんだ。でも華子らしいなあ」

「またぼくをバカにするー!」

「うむ、いつもどおり愛くるしい華子であるのう」

 総裁はそう微笑む。

「もー!」

 華子はちょっと怒っている。


「じゃ、先生、ありがとうございましたー!」

 みんなで舘先生に御礼をして、先生宅をあとにした。

「おう。みんな。進路もあるからテツ道ばっかりじゃなく、勉強頑張るんだぞ」

「はーい」

「返事はいいなあ!」

 先生は頭をかいて笑った。

「じゃあな」

「はい!」


 *


「ふむ」

 総裁がその帰り道、口を開いた。

「しかし舘先生、思わぬガードの固さであった」

「え、そうでしたっけ。ヒドイっ」

 ツバメは気付いていなかったらしい。

「ひどくないよー。でも、そうでしたね」

 御波も同意する。

「うむ。あんな殺風景な部屋に住んでいたとは。かなり我々の詮索対策にいろいろ整理してしまっておったようだ」

「なんか隠してますね。あれ」

「さふなり。そしてあの隠しきれないつらそうな表情。見ていて心が痛んだぞよ。大人になってのあの表情は、ワタクシには計り知れないなにかがあるのだ」

「そうですよね……」

 御波もうなずく。

「先生、過去になにか、お辛いことがおありだったのでしょうか」

 詩音も心配げに眉を寄せている。

「うむ。あのC63も、サラリと見たが、いろいろとフシギであった。なぜあんなに躍動するように描けたのであろうか」

 みんなで考える。

「C63は専門的な設計図のほかは、もと国鉄工場だったJRの工場に現存する5インチライブスチーム模型と、マイクロエースのNゲージ模型しかない。しかもC63はオーバーハングが大きくうまく走れないのではないかとも言われていたのだが、あのイラストを見ると何らかの現実的な改善が施されておった」

 総裁が分析する。

「え、どういうこと? ヒドイっ」

「つまり……あのC63、図面や模型だけから起こしたイラストではないのだろうと思う」

「えっ」

「……C63、もしかすると、どこかに実機があったのかもしれぬ」

「そんな! どこにそんなもん隠すんですか。実機があったら大騒ぎになりますよ! ヒドイっ」

 ツバメが驚いて呆れている。

「たしかにヒドイことになるであろうの。だが……舘先生、考えれば考えるほど、なにかヤバい話を抱えておるのではと思えてくる」

「そうですわね……。あのC63のヴィッテ式デフの空力で起きる煙の出方、あれは多分ものすごいコンピューターで空力シミュレーションしたか、あるいは実機を観察しなければ描けないものにみえましたわ。あれをただの人間の想像力や模型の観察で描くのは至難すぎます」

 詩音も分析する。

「さふであるのだ」

 総裁も同じことを考えていたようだ。

「ってことは、ギースルさんと舘先生は、C63の実機をどっかで見てるってこと?」

「その疑いが強い」

「そんな……」

「でも、そういった秘密を抱えておるのなら、たしかに先生は辛かろうと思うぞ。斯様な大きな秘密は、人間が抱えるには大きく重すぎる」

「そうだけど……」

「でも、それは憶測と類推でしかないよー」

 華子が否定する。

「確かに舘先生は物証はあのイラストの他に何も見せなかった」

「私達が来る前に隠したんですよ。多分。そう考えれば全てが符合する」

 御波がそう推理して怜悧な目を向ける。

「あるいは茨城のご実家に送ってしまったか」

 詩音も続く。

「そうかもしれませんね……。ほんと、辛い話でしょうけど」

 カオルが息をふーっと吐く。

「みんな、そんなことだと舘せんせいをおいつめちゃうよー」

 華子がそう泣きそうな顔になっている。

「ふむ。さふである。思いの外扱いが難しい話でもあるぞよ」

「舘先生……まさか、そのC63を隠す鉄道ファンの秘密結社みたいなのに入ってるんでしょうか」

「う、秘密結社!」

「そうかもしれない」

 総裁は驚いているが、御波はうなずいている。

「え! 冗談みたいに言ったのに。ヒドイっ」

 言い出したツバメも驚いている。

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