第6話 疑惑! 消えた蒸気機関車
「でも、そのC63、実機があったとしたら、それ、どうやって処分するのか。処分できなかったとしたら、あるいはどこかに現在も保存されているのかもしれません」
「ええっ。蒸気機関車1両、だれにも見つからないように保存するなんて」
「でも処分解体したら、絶対にその部品がファンの間で流通して噂になるはずであろうの」
総裁がそういい切る。
「そうだけど」
「やっぱりどこかに隠してあるのかも!」
御波が言う。
「でも今、保存車両、どこでも保存するの大変で困ってますよ。大きい上にすぐ錆びたりするから保管するだけでも大変で、鉄道会社もどこも泣く泣く大事な歴史の証人の自社の保存車両を解体してるんですから。ヒドイっ」
ツバメがそう口を尖らせる。
「この小田急ロマンスカーミュージアムのような保存施設を作れる会社ばかりではないし、小田急さんもここを作る前に保存車両を整理解体することになって社内が荒れて怪文書騒ぎになったりしたからのう」
海老名駅のコンコースをゆくみんなが、横目で建設中のそのロマンスカーミュージアムの工事現場の看板を見る。
「だから、秘密結社なのよ。それもただのファンの集まりなんかじゃない組織で」
「そうかもしれぬ。秘密を守るためならかなりヤバいことまでするぐらいの」
御波と総裁が言い合う。
「まさか。変な小説じゃあるまいし。ヒドイっ」
「ツバメさん、この物語は、そのとおりにわたくしたちを描いた『変な小説』なのですわ」
詩音がそういい出す。
「ひいい、いきなりメタ記述しないの! ヒドイっ」
「とはいえ、ほんと、これはヤバい話であるぞよ。いくらフィクションでもこれは本当に危険な話なり。下手をすれば人に危害が加えられかねぬ」
総裁がそう声を上げる。
「まさか!」
「でも、そう考えればさらに舘先生のことが合理的に説明できてしまうわ」
御波も加わる。
「そんな」
「ふむ。わが鉄研水雷戦隊の僚艦諸君を危険に晒すのは旗艦のワタクシとしては避けたいところであるのだが」
「また艦これみたいに言わないでください、ヒドイっ」
「むむむ。ここはひとつ、ここで忍び難きを忍んで、この件、保留としておきたいと思うのだが」
総裁が提案する。
「……そうですか。総裁、なにか思いついたんですか」
「そうではない。ただ、これは時間が解決するような、時間に解決を任せるべき質の問題かもしれぬ」
「でも舘先生、このままだとどんどん苦しくなっちゃいますよ」
「かといって、我らには、それを解決する知恵はまだ浮かばないぞよ。相手が悪すぎるのだ。我らでは解決するには力不足であるのだ。ここは忍び難きことであるが撤退すべき局面かもしれぬ」
「総裁がそんな怖がるなんて」
「たしかにワタクシは、今、恐怖しておるのだ」
その総裁の表情に、みんな、言葉を失ってしまった。
*
それから数日の間も、みんなは高校生活を忙しく過ごしていた。それでも鉄研部室に集まってテツ話をするのは欠かさないのだった。
そのなかで、舘先生の話は自然とタブーに近くなっていた。先生の辛い表情、総裁の恐怖の表情がみんな、胸に痛かったのだ。
尊敬する先生やみんなの心の中心である総裁をしてそうさせるような秘密を不用意に弄ぶような愚か者はこの鉄研にはいないのだ。その信頼と団結があるからこそ、ここまで彼女たち鉄研は、さまざまな試練や冒険をクリアしてこられたのだ。
「御波ちゃん、なにしてんの」
そんななか、なにかをしている御波にツバメが声をかける。
「タロットカード始めたの!」
「え、なに乙女なことしてるのよ。ヒドイっ」
「ひどくないです! というか私は乙女です!」
御波はそう口を尖らせる。
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