第7話 動揺! まさかの恋

「で、タロットで何を占うの?」

「まだタロット、私もよくわかんないの。だから本見ていろいろ練習しようかなと思って。ええと、大アルカナと小アルカナってのは……」

 御波は古本屋さんで買ってきたタロットの本をみながらカードを動かしている。

「ええと、『タロットはあなたのインスピレーションそのものです』だって」

「それ、御波さんのまさしく得意領域ですわね」

「じゃあ、なにかぼくたちのこと、占ってみてー!」

 華子がそう提案する。

「やってみますかー。でも、タロットって調べることを具体的にしないとかえって難しい、ってあるわ」

 そういいながら御波が布の上でタロットをシャッフルする。

「じゃあ、ツバメちゃんのヒミツー!」

「華子ちゃんいきなり恐ろしいこと占わせようとするわね……」

「え、私? ヒドイっ」

 イラストを描いていたツバメがびっくりしている、

「じゃあ、タロットさん、タロットさん、ツバメちゃんのヒミツを教えて下さい」

「ひいい、タロットはコックリさんじゃないー!」

 御波がタロットカードをぴっと1枚引く。

「なんだろう? このピンクのカード」

 カオルが興味深げに見る。

「『THE LOVERS』って書いてありますわ」

 詩音が読む。

「恋人たちってカードらしいわ」

 御波が本をみながら解釈を始める。

「えっ。そうなの?」

「それがこうやって私の手元を下にしてるから、『恋人の正位置』、ってことね」

「どういうこと?」

「ええと、だれかとうまくいく。楽しく人と関わる、恋がうまくいく、だって」

「えっ」

 ツバメはドキッとしている。

「ツバメちゃん、さては、だれかと恋してるの?」

 御波がいたずらっぽい目でツバメを見上げる。

「まさかー。あはは。ヒドイっ」

 ツバメははぐらかす。

「恋するって言えば華子ちゃんよね。前に信濃大町まで私と総裁でエスコートして学校サボって彼のとこまで行ったけど、華子ちゃんあの彼と、まだ続いてるの?」

「うん! いっしょに撮り鉄しようってまた話してるよー。JR長野総合車両センターに廃車回送されてきてるいろんな列車見に行きたいとか!」

「いいわねえ」

「すてきですわねえ」

 詩音がそううっとりという。

「でも、ツバメちゃんも恋してるの?」

 御波が詰める。

「え」

「恋してるんだ」

「まさか」

「恋してるんだ」

「私、そんなガラじゃないわよ、ヒドイっ」

「恋してるんだ」

「そんなことしないわよ、私、テツなことしてるほうが楽しいし」

「恋してるんだ」

 御波がどんどん詰める。


「……はい、恋してます! ひいい、そんな詰め方ヒドイっ!」


 ツバメが遂に白状した。


「えっ、えええええ!」


 それで部室内が一気にざわめいた。


「誰ー! 相手は誰なのー!」

「これはフィクションなの? リアルなの? どっち!」

「ツバメさん、いつのまにそんなステキなことに」

 みんな驚いて席を立ち錯乱している。

「ええと……もうちょっと落ち着いてから打ち明けようと思ってたんだけど」

 ツバメはケータイを取り出し、メールを見せた。

「え? 『ギースル800さんお泊り会! in トレインホステル北斗星』?」

「トレインホステル北斗星とは、あの寝台列車の内装になってる東京馬喰町のお宿、ゲストハウスですわね」

「そこにお泊り会? それもギースルさんと!?」

「ええええ!」

「うん」

 ツバメがうなずく。

「えええええええ!!」

 すぐに御波がデスクランプをとった。

「事情聴取します! 華子刑事! カツ丼用意して! あとカオル刑事、書記を!」

「わかりました! あと容疑者女性だから女性刑事の立ち会いも!」

「カオルさん……わたくしたちはみな女子ですわよ」

「あ、そか」

「『あ、そか』じゃないー!」

 みんな動揺して混乱している。

「さあ、吐いちまえー。吐いちまえば楽になるぞー」

「郷里ではおっかさんが泣いているぞ。♫かーさんがー よなべーを して」

 御波とカオルがそのうえ、刑事モノのように悪ノリしている。

「というか……何から話したらいいか……」

 ツバメも混乱している。

「ふむり」

「え、総裁いたんですか!」

 みんな飛び上がるほどビックリする。

「さっきからずっといたぞよ」

「なにそんな気配消しちゃうほど冷静なんですか!」

「とくに驚くことでもあるまい。我々は健康な女子、しかも法的には結婚もできる年齢であるからの。それに我がエビコー鉄研に、恋愛禁止のような馬鹿げたローカルルールはないのだぞ」

「そうですけど……」

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