第10話 上野! 停車場にて!

 みんなはいつものように海老名駅に集合し、そこから乗り換えて上野駅へ来たのだった。

「ここから常磐線ですね」

「大洗遠征のときと同じですね。じゃあ、快速電車のグリーン券用意しましょう」

「うぬ? なぜ?」

「え、いつもどおり2階建てグリーン車の平屋席ですよね。デッキのドア閉めたら、みんなでゆったり座って過ごせる個室になるから」

「む。今回はさふではないのだ。以前の大洗遠征ではそうしたのだが、今回の水戸遠征では、思い切って特急課金をするのだ」

「ええっ!」

「特急!! 私たち、特急料金払えるんですか! 私たち、びんぼーですよ!」

「うむ、このために著者の財布からクレカを拝借したのである」

「ひいいい! それクレカの規約違反ですよ! ヒドイっ」

「いつも我らの話を書いて楽しんでおるのだから、その対価であるのだ。では特急券を買うぞよ」

「あ、でも『えきネット割』使えばやすくなりますよ」

「それがなのだ。えきネットをここで、ケータイを操作して使うのはなかなかしんどいのだ」

「あれ、えきネット、ケータイでも使えますよ」

「パスワードを忘れてしもうた」

「ひいい! なにやってるんですか!」

「えきネットはパスワード認証したあとに謎のパズル認証をして、さらにまたパスワード認証がかかるのである!」

「力強く言ってもダメです!」

「ああ、また肝心なところで間抜けだ……」

「ゆえ、ふつーにホーム券売機で特急券を買うのだ」

「総裁……他人のクレカだと思ってそんな無駄遣いを」

「たうぜんである。普段から著者の愚痴も聞いてやったりしておるのだ。これはそのカウンセリング代であるのだ」

「ヒドイっ」

「じゃあ、乗るのはE531系の快速ではなく、E657系の特急『ひたち』あるいは『ときわ』ですね」

「いかにもである」

「でももう列車きましたよ」

「急がないと!」

「うむ、ここは思い切って、スルーするのだ」

「ええっ」

「次の特急までの間、上野駅を観察するぞよ」

「マジですか!」

「上野駅は見どころが多いのだ。じっくり観察し我らの鉄道研究とするのである!」

「また勝手にそんなことを」


「まず高架ホームから地平ホームに降りるのだ」

「あ、13番ホームだ!」

「さふである。上野駅トーサンバンホームといえば、かつて多くの北へ向かう有名夜行列車が発着した格式高いホームであるのだ」

「昔ここに北斗星広場なんてのもありましたね」

「そうだよー。それと大きなアヤシいトイレとラーメン屋さん!」

「かつては多くの旅人がこのホームに思いを秘めて立ったのである。しかしこの令和の御代では、このトーサンバンホームはJR東日本が誇る豪華周遊列車『トランスイート四季島』の発着する専用ホームとなったのである!」

「トイレも潰されて出発ラウンジ『プロローグ四季島』になったんですよね」

「ラーメン屋さんも今は喫茶店になりました!」

「でも自由にホームに立ち入れなくなりましたね」

「さふなり。四季島クルーのまつゲートがあって遮断されておるのだ」

「でも、ステキですわ。わたくしたち鉄研のもつ模型のなかでフラッグシップとも言うべき自由形周遊列車MH585系『あまつかぜ』がもし実車として実在したらこういうホームを発着するのかと思うと、とても空想がはかどりますわ!」

「詩音ちゃんまたはかどってるー」

「夢に胸を膨らませてるって言うけど、詩音ちゃん胸大きくて本当に膨らむよね。って、あ!」

「どうせ私は……うう」

「ツバメちゃん! そういうイミじゃないから!」

 ツバメはいわゆる貧乳なのである。

「胸が膨らまなくても夢はあっていいんだよー」

「華子ちゃん! それぜんぜんフォローになってないから!」

「ううっ、ぐずっ」

「ツバメちゃん、泣いちゃダメ!」

「もう、しかたないなあ、ツバメ。これ」

 ハンカチをすっと渡すカオル。

 受け取るツバメが、ハッとして目を上げる。

 すると。

「もう、おまえはぼくのほかを見るな」

 とカオルがツバメを抱えるような姿勢で壁に手をどんとつく。

「ひいいい! まさかの壁ドン!」

「これからはぼくだけを見ろ」

 さらにカオルはツバメの顎に手をやる。

「からの、顎クイ、キタ-!!」

「きゃああ、カオルさん、その仕草も佇まいも、とてもハンサムで、これはまたじつにいろいろはかどってしまいますわ!」

 詩音がコーフンして気を失いそうになっている。

「もう、あなたたちなにやってんの……」

「総裁も! どこ行ってたんですか!」

「途中で食べるお弁当を買っておった」

「総裁ほんと食はハズさないなあ」

「あああ、だめだこんな旅行シーン! もうこの話のPVはゼロよ!」

「また御波ちゃんもへんなモードに入っちゃって。あーあ」

「阿鼻叫喚……」

「うむ。では、たっぷり令和の上野停車場を見学したので、そろそろまた高架ホームに上がって列車に乗るぞよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る