第29話 潜行! 鉄研大捜査線!

「そこでワタクシはとあるサイトで舘先生を調べたのだ」

「みつかりますか、そんなの」

「うむ、そのサイトとはネット勃興期の90年代末に存在した、北関東の鉄ネタのサイトである。昔ワタクシは別件でそれを発見し、その興味深さからさらに閲覧しようと思ったのだが、そのサイトは昨今のウェブサービス統廃合で消滅しておった」

「geocitiesとかYahoo!ブログみたいなもんだったんですね」

「さふなり。ウェブアーカイブの重要性を思い知らされた」

「web情報って消えてほしくないものは消えるし、消えてほしいものは消えないですね」

「でも、それを見つけたんですね」

「さふである。以前、とある鉄道模型メーカーとワタクシがこっそり、とあるアニメ版権模型の話を進めておったのは諸君も知っておると思う」

「あ、ありましたね。何年か前。総裁がやたら変な模型作ってた時期」

「なんであんなの作ってたのかわかんなかったけど、それだったんですね」

「うむ。その席で知り合ったとあるテツの方が、そのサイトの関係者であった」

「奇縁ですねえ」

「そこでワタクシはそのサイトのデータをSDカードにコピーさせてもらっていたのだ。それを思い出した」

「で、それと舘先生やC63が結びつくんですか」

「ワタクシもわからなかったのだが」

 総裁はまた写真を見せた。

「TRY-Zの写真……」

「それも運転室の内装! 凄くレアな写真ですね!」

「マスコン配置、ぜんぜん既存車と違いますね!」

「この写真のキャプションに注目されたい」

「『常磐線高浜駅3番停車中のTRY-Z。通学中に偶然発見、撮影させてもらいました。運転士氏のご厚意に感謝。Dr.D』」

「えっ……」

「この『Dr.D』って、もしかすると舘先生!?」

「先生、お医者さんだったの!?」

「かもしれぬとワタクシは調べた。医師国家試験合格者の名簿を」

「えっ、名簿? そんなの見つかります?」

「厚労省のページに載っている合格者は受験番号のみの記載であり、名前は判明せぬ」

「そりゃそうですよ。個人情報ですもん。そんなのバレたらヤバいですよ」

「ところが、ニセ医者などいたら困るのも国民であり、それゆえ厚労省は医師の資格を確認できるサイトを公開しておる。『医師等資格確認検索』というページである」

「あるんですね」

「そこで検索すると、『舘 健』の該当は2名」

「ええっ、ホントだったんですか!」

「しかし医師免許登録年を見ると、片方は昭和43年。もう片方は平成12年」

「おかしいですね。舘先生そんな年取ってないし、平成12年まで医師免許とれずに浪人してるとは思えない」

「ですよねえ」

「他の情報は公開されておらぬ。だが、そこでワタクシは一計を案じた。合格しなかったものの、先生は医療の道を目指したのではないか、と」

「まさか、いわゆる国試浪人、医師免許とろうとしてる人のなかから舘先生探したんですか」

「個人情報そんなことで掘っちゃっていいんですか」

「公開されている情報なら、致し方あるまい」

「致し方あるまい、って……」

「でも見つかりませんよね」

「なかなか難しいのであった。該当情報どころかそんな名簿は公開されてはおらぬ」

「そりゃそうだ」

「だが……どうも気になる。平成12年のほう」

「えっ」

「そんな長い間、先生が浪人?」

「浪人というか、別の道を探っておったのかもしれぬ、と」

「でも先生のご実家、花の栽培農家ですよ」

「農家の息子が医者を目指すことになんのフシギもあるまい」

「そりゃそうですけど」

「それに、先生の資金源もフシギだ。あのヴェルファイア、なかなか維持費も購入も高い車であるぞ」

「それは……C63の『秘密保存会』が用立てたんじゃ?」

「そうなれば資金の動きが不自然になる。そこから全体が露見しかねぬ」

「そうですけど……そこはなにかの秘密の方法を使ったんじゃないですか」

「我が国の税務当局がそんなものを放置するであろうか」

「うっ、……そうですね」

「でも、ワタクシも確証が持てぬ。そう思っておったとき、身近に税とお金のスペシャリストがいることを思い出した」

「誰です?」

「元大蔵省大臣官房審議官」

「ええっ」

「まさか、それ、……総裁のお母さん?!」

「えええっ、ここまでのどこにそんな記述が!」

「pixivで連載継続中の『ファストリブート 鉄研でいずvsパトレイバー』の第8話『タクシーチケットとハイタッチ』にありますね。2018年」

 カオルが怜悧に思い出す。

「さふなり。我が母上であるのだ」

「総裁のお母さん、大蔵官僚だったなんて」

「マジですか……」

「うむ。我が母上に聞いたのだ。こういう事案はどうやれば隠蔽できるであろうか、と。母上は地方の税務署長もやったことがあるからの」

「嘘……」

「それで母上からはいろいろな税務会計当局をごまかす連中のテクニックを聞いた。しかしそれは本当にやられたら。やたらめんどくさくなって洒落にならんのでここでは言わぬ」

「そりゃそうです!」

「でも母上、そういう仕事をしていた頃のことを思いだして、ひさしぶりに上機嫌であったのだ」

「総裁とお母さん、もともと仲悪かったもんね」

「恐縮である」

「ここ恐縮するとこじゃないですよ。もー」

「そこでわかったのが、普通であればそういうお金を隠すことは不可能であることだ。秘密裏に銀行口座を開くことなど現代ではまったく不可能。マネーロンダリング対策の本人確認の徹底もあるし、法人格の確認も徹底しておる。営利法人だけでなくNPOであっても確認は厳密に行われておる」

「そうですよね」

「というのが、公式な見解である」

「えっ」

「ところが、公式でない『蛇の道』はあるのだ」

「マジですか!」

「うむ。詳しくは割愛であるが、そういうものは存在し、税務当局も追い詰めきらぬそうだ。なにしろそういうものをうかつに追い詰めると、書類を隠すために家や事務所で火事を起こしたり、さらには殺人もおきるので、追い詰め方に工夫が必要でめちゃめんどいとのことであった」

「ひいい! 本当ですか!」

「洒落にならぬ」

「そうですよね……」

「でも、舘先生のお財布の様子、総裁、まさか」

「うむ。ある程度解明したのだ」

「ヒドイっ! ヒドスギル!」

「それでわかったのだ。舘先生がなぜあのクルーズ船の現場にいたのか」

 みんな、息を呑んで聞いている。

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