第2話 電撃! 交渉LINE!

「じゃ、舘先生に話してみますね!」

 御波がケータイを取り出し、LINEでメッセージを送ろうとする。

「ひいいい! ヤメるのだ!」

 総裁が慌てて止める。

「えー、なんで?」

 御波が口を尖らせたそのとき。

「え、わたしたちで舘先生のおうちを訪問するんですか! ヒドイっ!」

 ツバメが気付いた。

「ひどくないよー。先生のおうち、ぼくらで綺麗にするんだからー」

 華子も口をとがらせている。

「でもぼくはあんまり気が進まないなあ」

 カオルは頭をかいて声を低くしている。

「でも、先生も私生活をもう少し充実なさってもよいのではとわたくしは常に拝見して思っておりましたわ」

 詩音がいつものように口を上品に手で隠して話す。

「ワタクシはそれはさすがに先生が可哀想だと思うのだ」

「なんで?」

 総裁に御波が聴く。

「だって、先生にも話したくないこと、見られたくないものもあるだろうからの」

「そりゃそうですけど」

「でも、そういう遠慮をはさみすぎてしまっていては、人間、抱えたものの重さに潰れてしまいますわ。程よく遠慮を超えることも必要かと存じますわ」

 詩音がそう口にする。

「しかしその程よくというのは実に難しいぞ」

 そう総裁は口を濁す。

「そだ、総裁も秘密抱えてるよね」

「そうそう。総裁の背中のチャック開けて中に何がいるか見てみたい!」

「総裁ぜったいチャックあけた中に昭和のおっちゃんがいますよ!」

「賛成!」

 口々に部員たちが言う。

「うっ、なぜそうなるのだ、というか御波くんこの間に舘先生にもうメッセージを送ろうとするのはやめれ! そんな軽々にやっていいことではないぞよ!」

「でももう返事来ましたよ」

 御波が平然とそう答える。

「ええっ。どうだった?」

「『ヤダ』、って」

「そりゃそうだよね」

 みんなため息をつく。

「でも、華子ちゃんちから美味しい出前持っていきますから、って送ったら」

「なに勝手にぼくんちのこと条件につけちゃうのー?」

 華子の実家は鉄研のみんな御用達の食堂でもあるのだ。

「御波ちゃんそういうとこ、ほんと恐ろしいよね」

「で、どうだったのですか」

「『やっぱりヤダ』って」

「そうだよねえ」

「だから『このまえ買い出しに行った秋葉原『ぽち』でマイクロエース・ロマンスカーMSE6両編成基本セット、めちゃ安かったですよ! 定価3万円近いMSEなのに完動品ライト異常なし軽度使用で2万円切ってました!』って送ったの」

「御波くん、そんな条件交渉までして」

 みんな御波にドン引きしている。

「で、まさか」

「『確保してくれるなら』って」

「うっ。舘先生、陥落してしもうたのか……鉄道模型エサにしたら……」

「というわけで、舘先生の『オタク、訪問!』、今週末に決まりました!」

 御波は宣言する。

「ヒドイっ! ヒドスギル!」

「でもこれで舘先生も、きれいなお部屋でお過ごしになれるのですわね」

「舘先生ちょっと可哀想かなあ」

「ぼくんちの出前、何持ってけばいいの?」

 みんなすでにその気になっている。

「ううむ、ワタクシはまだ気がひけるのだが」

 総裁は唸っている。

「でも、もう決めちゃったんだから、みんなで行きましょうよ」

 御波は明るい声で言う。

「しかし……」

 そのとき、御波が言った。

「だって、舘先生、みてらんないですもん」

「う?」

 総裁は怪訝な顔になる。

「総裁鈍いですよ。舘先生、だって私たちが楽しそうに鉄道の話してると、ちょっと辛そうですもん。それも最近ますますそれがつよくて」

「そうだったのか」

「総裁ほんとに気付いてなかったんですか」

「恐縮なり」

「また恐縮がズレてる。でもほんと、舘先生の肩の荷、少し軽くしてあげたいんです」

「そうなってくれればよいのだが」

「そりゃ不安はありますよ。でもこのままではいられないです」

 総裁は考えていたが、うなずいた。

「……さふであるな」

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