第24話 万感! さよならの保存車たち
その『北斗星』の客車の反対側には、気動車が並んでいる。
「鹿島臨海鉄道の『マリンライナーはまなす』ですね」
「さふなり。東海村の原発関連の補助金で作られた豪華列車であったのだ。快速列車として運転されていたが6年の運転で定期運用を失い、臨時列車や正月の多客臨に運転されるだけとなり、そののち検査切れで神栖駅構内に留置されておった」
「でもここに来られてよかったのですわ」
「だが、今見ると車内ラウンジなどいろいろ撤去されておるのう」
「残念ですけど、でも、そのかわり、ここにくる子どもたちに愛されれば、この車両としての第二の生で幸せなのかもしれませんね」
「さふなり」
みんなで車両を見学しながらもとのD51とEF81のところへ向かっていく。
「関東鉄道のキハもまた貴重ですね」
「置き換えられていくからのう。これも来歴がまた数奇であるのだ」
「ちゃんとそのことが説明られてるのがいいですね」
「さふなり」
そのとき、舘先生が促した。
「うむ、なんであるのだ?」
「総裁、これ、どっかで見る風景じゃないか? 新幹線とD51とディーゼルカーがごっちゃにレールに乗ってる」
「うむ、これはポポンデッタなどのレンタルレイアウトでの鉄道模型の風景なり」
「そうですね! そういう感じ!」
「でも原寸大でそれを見ると、とても素敵に見えますわ」
「そうだねー!」
みんなのリアクションに、舘先生もギースル氏も笑った。
「腕木信号と3灯信号がならんで保存されておるのう」
「われわれが3Dプリンタで再現したのを思い出しますね」
「その反対側は工房であるのか」
「メンテのスタッフさんがここで作業するんですね」
「引退した旅客機YS-11もここで保存されることになってるんだ」
舘先生が案内する。
「あっちには小型の飛行機も」
「まさにテツ・ヒコーキでテツヒコですね!」
「ステキですわ!」
みんな、それぞれケータイで気になった箇所を写真で撮っている。
「うぬ」
総裁はこの保存地域を見て回っている。
「さすがに、ここにC63はないのう」
「そりゃそうでしょう」
御波が言う。
「これほどの資金力ならもしや、と思うたが、やはり民間では無理であったのか」
「うーん。となるとどこに隠しちゃったのかなあ」
「わからぬ。消えた機関車であるのだ」
そのとき、舘先生とギースル氏が呼んでいた。
次の目的地に出発するのだ。
「しかし、この一帯、トイレが実に豪勢であるのう。これもここのオーナーの経営哲学であるのか」
「そういうことだよ」
舘先生が微笑む。その反対側から子供連れの夫婦が何組かやってくる。
「こういうのって、ほんとうにいいわね」
ツバメもうっとりとした声で言う。
「さふであるのだ」
*
一行を乗せた2台の車は、その筑西の桜川筑西ICから高速道路・北関東自動車道に乗った。レーンキープ機能を使ってリラックスしながら車は東に向かう。
「ほら、海が見えてきた!」
みんな、フロントスクリーンに見入った。
「太平洋だ」
「すごーい!」
「舘のやつ、フェリーにも何度も乗ってたな。このひたちなか海浜公園からその船を見てた」
「すてきだなー」
「でも、舘のやつ……ここに連れてくるなんて」
「え?」
みんな、ギースル氏の言葉を訝しんだ。
「舘にも考えがあるんだろうけども。あ、この先で高速降りるのか。やっぱり」
*
「終着駅、って雰囲気がロマン溢れますね!」
ここはひたちなか海浜鉄道湊線・阿字ヶ浦駅。
「線路が太平洋に向かって途切れて車止めになってる」
みんな、海風の吹くこの駅で、息をいっぱいに吸った。
「あのQRコードは何であろうか」
「ああ、列車であれを読み取るんだ」
「興味深いのう」
「ここにも保存車がありますね」
「富士重工製の気動車ですね」
「北海道の羽幌炭鉱鉄道で走ってた車だ。昭和45年からここを走ってた」
「国鉄キハ22にそっくりですね」
「でも運転席の窓見てごらん」
「あ、旋回窓!」
「雪国対策ですね!」
「そうだ。平成27年まで現役だった」
「最近じゃないですか」
「そうだな。ここから海まで200メートルなんで、この車体を海水浴客の更衣室として提供してた」
「へー!」
鉄研のみんなは感心している。
「でも、やはり海風で傷んでますね」
「しかたないのう。やはり塩気がある風は車体には厳しいのう」
「ここからこの先の海浜公園まで線路を延長する計画があるんだが、なかなか進まなくてな」
「そうなんですか」
舘先生はそう案内するが、少し様子がおかしい。
「舘、無理すんな」
「いや、ここにこの子達を連れてきたかった。何としても」
――え? なんで?
鉄研の6人はみんな訝っている。
「総裁、あのグレーの箱型のあれ、何だと思う?」
「うむ、もしかすると、蒸気機関車用の給水塔であろうか」
「正解」
「え、ほんとですか!」
「小さくて可愛い!」
「その下の線路は、蒸気機関車用のアッシュピットを使わなくなって埋めたようにも見えますな」
「そういうこと」
「すごーい!」
みんなでいろいろ駅の周りを観察している。
「あれ、舘先生は?」
「駅のトイレ借りてるよ」
ギースル氏がそういう。
「ほんと、無理しやがって」
え?
「あのとき、終わったあとに舘のやつ、姿がみえなくなって。ぼくは探したけど、なかなかみつからなかった。でも、ここにあいつはいた。ここの待合室であいつは嗚咽してた。おれたちの思い出のこの阿字ヶ浦で。たぶん、あいつはもう最期の死に場所を求めてたんだ」
「終わった、って」
「ああ。もう、すべて話そう」
氏は思いを切って、声を整えた。
「舘とおれは、88年の暮れ、大宮で」
そのとき。
「風間、ティッシュもってねーか?」
トイレからの舘先生の声がそれを遮った。
「ペーパーがねーんだ、ここのトイレ。ひでーの」
「先に確認しなかったのか」
「いまどきそんなだと思わなかった」
「……ほんと、しょうがねえなあ」
ギースル氏は呆れながら、ポケットティッシュを渡しに向かった。
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