第15話 土浦! あのころの君は
鉄研のみんなは常磐線に乗って土浦駅へ向かった。
しばらくして土浦に着く。
ツバメはさらにぼうっとしている。
「ツバメちゃん……」
呼ぼうとする御波を華子が止めた。
「さふである。察するのだ」
総裁もうなずいている。
その時。
「あ……」
現れた男性は、明らかに普通ではなかった。服装は地味だったが、纏う空気が普通の人と全く違う。
「いらっしゃい。ようこそ土浦へ」
そう言った彼。
ギースル氏だ!
「む、感謝なのである。はじめまして。ワタクシ、エビコー鉄研総裁、長原キラであるのだ。本日はわが友・芦塚ツバメくんの付き添いで参上した。よろしくなり」
「君が総裁か。よろしく」
彼は総裁と握手した。総裁と彼の視線が合う。総裁が不敵に微笑んでいる。何かをまた感じたようだ。
「他のみんなは? あ、君には会ったことあったね」
詩音に彼は気づいた。
「恐縮ですわ。去年のコミケ以来ですわ」
詩音も握手する。
「ツバメくん?」
ツバメはさらにぼうっとしていたが、呼ばれてようやく我に返った。
「あ、はい!」
「他の皆さんを紹介して」
「あ、そうですね」
ツバメはようやくここで我に返った。
「この背の高い子がカオルちゃんです」
「ども」
「君が将棋指しって子だね」
「御波ちゃんです」
「ほんとアイドルみたいだね。よろしくおねがいします」
「ツバメくんの親友と聞いてるよ」
「そして華子ちゃんです」
「こんにちはー」
「こんにちは。かわいいね」
「これで全員です」
「そうか」
彼はみんなと握手を終えて、ちょっと唸った。
「僕の車で行くよ。車内ちょっと君たちには狭いかもだけど、許してくれ。駅の駐車場に置いてきてる」
「ありがとうございます!」
みんなで橋上駅舎から長い跨線橋を通って駐車場へ向かう。
「この跨線橋の下にTX(つくばエクスプレス)開通の時の車両が甲種(輸送)されてきたんだ」
「そうなんですか」
「うむ、ギースルさんはそれを見に行ったのであるか?」
「いやー、忙しくていかなかったんだ」
「残念なり」
「そうだよね」
ギースルさんはそう言うと跨線橋から降りるエレベーターのボタンを押した。
そのあいだ、ツバメがちょっと妙な表情をしている。そりゃそうかもなあ、と御波は思う。とはいえ彼女もそう恋愛経験があるわけではないので、想像しているだけだけども。
エレベーターが小さく、みんなの荷物が多いので2組に分かれて乗った。
みんなで彼につづいて駐車場に移動する。
「ごめんね、うちに泊めるわけには行かなくて。うち狭いんだ」
「すみません……」
「でもいいね、君たち楽しそうで」
彼はちょっと寂しそうな顔になった。
「どうなさったのですか」
「昔を思い出しちまった」
「うぬ?」
総裁が聞く。
「まあ、いろいろあったのさ。これがうちの車。7人なんとか乗れるはず」
「ありがとうございます。お邪魔します!」
駐車場では白と青のシエンタが待っていた。
「これ、もしかするとTRY-Z塗装ですか」
「そうだよ。さすがだね」
「お好きなのでしょうか」
「ああ。常磐線の幻の白い稲妻だったからな」
「ご覧になったことは」
「夜間試運転、こっそり見せてもらってたよ」
「すごーい!」
「あのころ……」
そういいかけて彼は口を閉じた。
「あのころ?」
「なんでもないさ」
みんな、それで言葉が出なくなった。
「昔の話だ」
場の空気が重くなった。
そのとき。
「お昼ごはんどうしますー?」
華子が聞いた。
「ああ、それだいじだね。ぼくが時々行くレストランに行こう」
「やたー!」
華子が喜んでいる。
「じゃあ、荷物積んで乗って」
「はい!」
鉄研みんなの声がコーラスのように揃った。
「乗ったかい? 乗り忘れない?」
彼が優しく聞く。
「ありませーん」
「じゃ、いくよー」
彼がエンジンをスタートさせた。
「この曲は?」
「ああ。昔よく聞いてた曲だ」
これは……。
「……尾崎豊」
総裁が気づく。
「ああ。よく知ってるね」
「ワタクシも時々聴いております」
「そうか。じゃあこれは?」
走り出した車の中でみんなで聴く。
「ぴんぽーん、長渕剛!」
「早押しじゃないんだから」
「しかも口でピンポン言ってるし」
だが彼は笑った。
「正解。じゃあ、次を」
「これ、山下達郎ですね!」
「思わぬイントロクイズの様相……」
彼はまた笑っている。
「ほんと昭和ネタくわしいね! 君たち若いのに」
「我々の知らない時代だけに。興味が尽きないのです」
「そうかそうか」
「そのなかに舘先生もいたのでありますか」
総裁が聴く。
「舘……。
みんなびっくりする。
「ああ。そうだ。奴とはあのころ、よくつるんでた」
「そうでありますか」
「ああ。奴にはすまないことをした」
え?
「すまないこと?」
総裁がいぶかる。
「というか、君たちの鉄研の副顧問だってな」
「さふであります」
「そうかそうか」
彼は微笑んだ。
「そこまで回復できたのか。よかった」
え?
みんなは目を見合わせた。
――舘先生、あのころになにがあったの?
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