第21話 宿泊! 増殖する疑問

 すっかり荒れた総裁であったが、鉄研一行は副総裁の御波と書記の詩音の整理により、無事ギースル氏宅宿泊組と舘先生宅宿泊組に組分けを行い、別れて宿泊することとした。

 ギースル氏宅に総裁・ツバメ・カオルが、舘先生宅に御波・詩音・華子という組分けである。

「じゃ、また明日朝」

 そう言って鉄研6人はイオンモールの駐車場で2台の車に別れた。



「総裁」

 車を運転するギースル氏が口を開いた。

「コーラで酔った、って、あれ。嘘だろ?」

 総裁は答えない。

「ええっ、そうなんですか、ヒドイっ」

 ツバメが驚いている。

「強引でもいいから、ぼくらの口を割るためにやったんだよね」

 氏の車の助手席に座った総裁は、表情を見せない。

「そこまでぼくら、チョロくはない、といいたいけど……気持ちはわかるよ」

 ギースル氏は車をバイパスの交差点の右折車線に入れて、信号が変わるのを待つ。

 夜更けてきたが、バイパスを多くの物流トラックが流れている。

 それを総裁も見つめている。

「だが、あの事は言えないんだ。すまない」

 ギースル氏はそう言った。

「舘はそのせいで、20年間つらい思いをした。でももう20年だぜ。だからもういいんじゃないか、とぼくも思ってる。だけど、舘の一存でも出来ないことでもあるんだ。だから、舘が可哀想でならない。でも舘はそれでも守りたいものだったんだ」

「その守りたいものが実機のC63ということですな」

 総裁がそう切り込んだ。

 ギースル氏は言葉を選んだ。

「半分は、な」

 ――え、半分?

 ツバメとカオルは後ろの席で目を見合わせた。

「思いは引き継がれる。すべての関係者の間で。そしてその切ない思いは未だに届かない」

 車の中は静まり返った。外を行くトラックの轟音が遠雷のように響く。

「それがぼくも、悔しくてたまらない」

 ギースル氏はそう言って、目を伏せた。

 そのとき、道路信号がかわった。

 彼は少しの間のあと、車をスタートさせた。



「お風呂沸いてるよ」

 ギースル氏宅についた。

「ありがとうございます! 総裁もお風呂入りましょう」

「……うう」

「なにコーラで悪酔いしてるんですか。ヒドイっ」

「というか、総裁、ほんとに酔ってたんですか」

 カオルも驚いている。

「うう……キモチワルイ」

「戻します? お酒でもないのに。変だなあ」

 ギースル氏は笑った。

「水飲んだら? 今入れるよ」

「かたじけない」

 総裁はそう弱々しく礼をしてコップを受け取った。

 んく、んく、とそれを飲む総裁。

「じゃあ、ぼくは部屋にもどるよ。布団はこの部屋のここ、押し入れに入ってるから好きに使って。トイレと風呂はこの廊下の突き当りだから」

「ありがとうございます!」

 氏は戻っていった。



「総裁、ほんとに具合悪かったんですね」

「ワタクシはカフェインをとりすぎるとこうなるのだ……」

 総裁はそう言って息を吐いた。

「大昔にそういうアニメキャラクターいたような気がします」

「カオルちゃんネタが古すぎるわよ、ヒドイっ」

 そのあと、3人はふーっとため息をついた。

「C63のことを二人、守ってたんですね」

「でも本当に秘密結社なんだろうか」

 カオルがその眼で推理する。

「C63保存会的な組織があるとして、それが実物の機関車1両を何年、あるいは何十年も秘匿しておけるものなのでしょうか。

 まずC63実機をどうやって建造したのか。個人や町工場レベルでそんな事はできないでしょう。当時の国鉄工場か車両メーカーがやったのでしょうけども、そんなことすれば関係者が飛躍的に増えて秘密は守れなくなります。

 そしてC63をどうやって保管したのか。建造時期が蒸気機関車終焉の寸前としたら、ずいぶん長い時間保管してることになります。それも秘密で。そんな事できる場所がありますでしょうか。

 そして舘先生とギースルさんがその保存会に関与したのに、なぜ舘先生がそんな孤立しちゃったんでしょうか。そういう秘密を守る組織が一人に秘密を押し付けてつらい思いをさせるのはあまりにもリスキーです。舘先生になにもリターンがないということはないと思います。でも舘先生はそれ以上につらい思いをしている」

「あの舘先生のマンションのお金をその保存会が用立てたのかな。ヒドイっ」

「あの本厚木のマンション? そうかもしれないけど……舘先生、それで喜ぶ人かなあ」

「事実喜んではおらぬからああいう辛い表情になるのかもしれぬ。金で口止めと考えたのかもしれぬが、舘先生はやはりそういうもので黙っていられるほど安易な人物ではないのは承知であることだ」

「そうですよね……」

「そして、そうするにしても、C63の保存には莫大なお金がかかるでしょう。そのお金を誰が負担し、どうやって用立てたのか」

「カネがないのはクビがないのと同じ。カネなしには何事もなしえぬ。その疑問はたしかにある。鉄道車両の保存が金になるならみんな保存しておるであろう。でも現実にはカネになるどころか、維持補修には莫大なお金がかかり、個人では生半可ではとても負担しきれない。その上我が国の税制は車両の保存、産業遺産の保存についてもまったく理解がないのだ。聞く中では保存車両についても固定資産税がどっさりかかり、その負担に耐えきれず保存車両を解体した会社もいくつもあるという」

「そんな中でそんな莫大なお金、どうなってるんでしょうね。ヒドイっ」

「たしかにヒドイのう」

 また、ふー、っと息を吐いた。

「ところでツバメくん、ギースル氏と」

「そうですよ。恋仲だって聞いたのに」

 ツバメは真っ赤になった。

「そんなんじゃないです!」

「じゃあどうなのだ?」

「私は、こうしてギースルさんと行動一緒にするのが楽しいから……って、これ以上何をすると思ってるんですか、ヒドイっ」

「うむ、恐縮である」

「その恐縮、意味がわかんないですよっ!」

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